その3
虫の知らせというものだろうか?
「総員、起こし!!
艦隊の出港準備をせよ!」
エリオは夜が明けきらないうちに、いきなり命令を下した。
それにより、部屋のすぐ近くにいた衛兵達が右往左往する事となった。
マイルスターはおろか、シャルスさえ、いない時に急に命令を発したからだ。
普段はベットが親友のエリオが、この時間に起きている事だけでも不思議な現象である。
そして、総司令官のように、命令を下すのも異例である。
バタバタ、バタバタ……。
静寂から、そこら中で、一気に慌ただしい動きへと変わっていった。
そんな中、マイルスターとシャルスも慌ててエリオの前へとやってきた。
出港準備ってどういう事?
滞在は2、3ヶ月の予定で、ようやく1週間ちょっと経った時だった。
なので、そのような反応は当然だった。
「閣下、敵襲ですか?」
マイルスターは、何が起きているのか、確認する必要があると思っていた。
「いや、違う。
兎に角、急ぎ、出港する!」
エリオは、焦っている様子だった。
その様子を見て、シャルスは敬礼をすると、踵を返して、走り出していた。
理由は分からないが、兎に角、指揮官の命に従う為だ。
それを見送りながら、マイルスターは、釈然としなかった。
これまでのエリオの様子からすると、早急に王都に帰還するのは良い事だと思った。
だが、早急に帰還する必要があったかは甚だ疑問である。
「閣下、如何なる理由で、帰還命令を出されたのですか?」
マイルスターは、そういう事情もあり、参謀として、確認する必要があった。
「理由……?」
エリオは、マイルスターの質問に窮してしまった。
マイルスターにとってもこれは意外な展開だった。
理に傾きすぎたエリオが、出した命令を説明できないとは恐らく初めてではないかと思われたからだ。
(何が起きているのか!!)
マイルスターは、勝手に事態の深刻さを噛みしめていた。
「勝手に」と記述したのは、どう見ても、現在は深刻な状況にはなかったからだ。
それは、マイルスターにも十分分かっていた。
だが、どうにも拭い去れない深刻さがあった。
「今はすぐに出港する」
エリオは、命令を繰り返しただけだった。
「!!!」
マイルスターは、更に驚いた。
いつもの和やかな表情が吹っ飛ぶほどだった。
エリオといると、驚きの連続だった。
だが、まあ、エリオだから仕方がないと言った感じで、驚きながらも、いつもなら和やかな感じでいられた。
それが、出来ないのは異常事態であった。
そう、あのエリオが理屈ではなく、感情で、命令を下したのだから、当然かも知れない。
そして、エリオはマイルスターの反応を伺っていた。
「正直申し上げて、今回の閣下の命令は、不可解です」
マイルスターは、取りあえず、素直に今の自分の気持ちを伝えた。
「……」
エリオは、自覚があるようで、今の言葉には無言だった。
同じ気持ちなのだろう。
「しかしながら、この島に来られてから、閣下はずっと腑に落ちないと言った感じでいらっしゃいました」
マイルスターは、いつもの和やかな口調に戻し、そう続けた。
それをエリオは黙って聞いていた。
その自覚もあったからだった。
「ですので、理由は分かりませんが、今回のご命令は、良い判断だと思います」
マイルスターは、納得はしていないが、賛成はしていた。
「うん……」
エリオは、頷いただけだった。
自分自身の気持ちを完全に整理できていなかったからだった。
とは言え、間違った命令を下したとは思ってはいなかった。
「然らば、閣下」
マイルスターは、エリオの行動を促した。
「うん、港に向かおう」
エリオは、気持ちを切り替えて、歩き出した。
それに、マイルスターが続いた。




