その6
出会い頭という言葉がある。
その後に続く言葉として、最も思い浮かぶものは、事故かも知れない。
まあ、それはともかくとして、エリオ一行は島の西側へ向かっていた。
目的地は温泉地。
そして、この超展開について行ける人間は本当に選ばれし者だろう。
そう、筆者の能力がないので、こう言った超展開になる。
とは言え、モルメリア島上陸後のエリオは、いつも以上に気が抜けていた。
それを書いても致し方がないのであった。
筆者のことはさておき、この処置は、エリオの妙な雰囲気を慮っての事である事は言うまでもなかった。
そう、マイルスターとマナラックが主導したのだった。
そして、当然、その理由はエリオには知らされなかった。
とは言え、エリオ自身は自分の態度故にこうなった事に気付いてはいた。
しかしながら、エリオ自身、自分がどうしてこのような浮かない気分でいるのか、未だに分からなかった。
そして、納得もしてはいなかった。
なので、気分を変える為にも、全く興味がない温泉へと行く事にした。
それにしても、温泉に興味がないとは、やはりエリオなのだと思う。
そんな状況なので、エリオ一行は残念オーラを纏いながら、島の名前の由来となったモルメリア山へと向かっていた。
「漢のロマン」と「温泉」
ハイテンションになってもいい所だが、まあ、一生縁がないだろうと思わざるを得ない。
港町フォールマから温泉街までは、一応道はあるものの、人工物はほぼなかった。
海岸線沿いから島の奥に入り、森林地帯を抜けると、草原地帯へと入った。
「えっ!?」
「えっ!?」
どちらとも、驚きの声が上がった。
要するに、出会い頭の事故みたいなものが起きたのだった。
稀代の策略家も、銀の死に神(?)も、この事態は予想外だったらしい。
稀代の策略家は、強張った表情でその場に固まった。
(その存在は、脅威にならないような事を言っていたけど……)
稀代の策略家の随伴者は、呆れた表情で、傍らに立っていた。
銀の死に神(?)の方は、焦った表情を浮かべたのは一瞬で、すぐに平静を装った。
そして、ゆっくりと稀代の策略家の方へと近付いていった。
(ええっと、遠目から観察するのではなかったのですか?)
銀の死に神(?)の随伴者は、戸惑っていた。
いや、どちらかと言うと、「ああ、やっぱり」と言った感じで、仕方なく一緒に近付いた。
3人グループはその場で立ち止まり、2人グループは3人グループの前まで来て立ち止まった。
ぴゅーうぅぅぅ……。
5人の間には、いざ決戦といった感じで、風が通り抜けていった。
……。
沈黙が訪れてしまったので、決戦とは行かないようだった。
緊張したような空気と言いたい所だが、この5人が集まってしまったので、必ずしもそれだけではなかった。
ぴゅーうぅぅぅ……。
間抜けた空気になりそうになった所で、再び風が通り過ぎてくれた。
「……」
銀の死に神(?)サラサは困った表情で、バンデリックの方を見た。
(そんな目で見られても……)
バンデリックは、久しぶりに本当に困った表情のサラサを見た。
だが、こんな時に頼られても、何ともし難かった。
逆に、サラサ以上に困惑の表情を浮かべていた。
(お嬢様の意思で近付いたのではなかったのですか?)
バンデリックの心の声が聞こえたのか、サラサはムッとした表情でバンデリックから視線を外した。
そして、サラサは相対している3人グループを観察した。
空気読まないシャルスは、どこ吹く風と言った感じで、その場に突っ立ていた。
第3者になりきり、これから起こる事を楽しみにしている雰囲気さえあった。
エリオに苦言を言いたいマイルスターは、取りあえず自然体でその場に立っていた。
稀代の策略家エリオは、唯一警戒し、いつでも逃げ出そうという姿勢を取っていた。
傍から見ても、エリオの「逃げ出すぞ、逃げ出すぞ」と言う態度は明らかだった。
「あ、いや、別にここで事を構えるつもりはないから……」
サラサは、エリオから受ける妙なプレッシャーを受けて思わずそう口走っていた。
そして、腰にあった剣を鞘に収めていたまま、右手で鞘を持ち、エリオの方に突き出してしまった。
それに釣られて、バンデリックも仕方なく、サラサの行動に従った。
自ら武装解除してしまった……。
(しま……)
事の成り行きからそうなってしまったのだが、そう思う暇も無く、2人の剣が消えていた。
まるで魔法のようだった。
ピュー!!
2人の間に疾風が駆け抜けた。
そして、2人は思わず、疾風を追うように、後ろを振り向いた。
すると、後ろには、2人の剣を抱えたエリオが、2人の来た方向へ走り出していた。
「……」
「……」
サラサとバンデリックは、その様子を何も考えられずに見守っていた。
エリオは、ある程度離れると、2人の剣を丁寧に道端に置くと、瞬時に戻ってきた。
エリオは安心したのか、得意気な表情になっていた。
「……」
「……」
サラサとバンデリックは、それを見て、お互い顔を見合わせる他なかった。
エリオの傍らで、シャルスは笑いを堪えていたし、マイルスターは頭を抱えていた。
「それでは、一方的にこちらが不利では?」
サラサは、呆然としながらも抗議らしき声を上げた。
いや、状況を完全に把握しようとしたら、こう言わざるを得なかったと言う方が正しいか?
「!!!」
エリオは、サラサの言葉を聞くと、ハッとした。
すると、マイルスターとシャルスの腰にある剣を一瞬で奪い去った。
そして、剣を抱えたまま、自分達が来た森林地帯へと向かって走り出していた。




