表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
16.対面

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/173

その4

 さて、『漢のロマン』を満喫中のエリオである。


 しかし、表情が優れているというものではなかった。


 いつもそうだろうというツッコミが入ったかと思われる。


 だが、いつもの冴えない表情とはちょっと違うような気がする。


 あ、いや、あんまり変わらないような気もする。


 まあ、ともかく、「漢のロマン」を満喫中という雰囲気ではない事は確かだ。


 でも、まあ、いつもと違う点もあった。


 それは、視察に自ら進んで出向いていった所だった。


 それが目的で来ているのだから、当然である。


 しかし、いつも怠惰に過ごしたいエリオにとっては、驚くべき事なのかも知れない。


(しっかし、その表情は何とかならないのですかねぇ……)

 同行しているマイルスターは、気が気でなかった。


 同じく同行しているシャルスは、相変わらず、空気読みませんという表情をしている。


 更に同行しているマナラックは、現地商人達の代表である。


 要するに、この雰囲気を打開できる人物は、マイルスター1人という事になる。


 いつもながらの孤立無援状態だった。


 戦場での孤立無援はご遠慮願いたいが、こういう時の孤立無援状態はそんなに悪くなかった。


 やる事が決まっている為、自分がそれをやらなくてはならないからだ。


 と言う気分にマイルスターはなっていた。


 流石に、エリオの参謀だけある。


「で、閣下、到着なさってから、ずうっとこんな感じですが、何か、気掛かりでもおありですか?」

 マイルスターは、自分の責務を果たす為に、質問をした。


「うーん……」

 エリオは珍しく困ったように、言葉を濁していた。


 あ、まあ、この行為自体は別にエリオにとっては珍しい事ではない。


 ただ、懸念事項を言葉に出来ないというか、口に出せないといった感じがした。


 エリオの態度から、懸念事項がある事を、マイルスターは確信した。


 だが、いつもなら、自らそれを言い、解決に向かう筈のエリオがそこにはいなかった。


 なので、マイルスターは、より深刻な事態に陥っているのではないかと感じざるを得なかった。


(直近の懸念事項と言えば、バルディオン王国第2艦隊との遭遇……、まさか!?)

 マイルスターはそう思うと、ハッとした。


「閣下、最近遭遇した第2艦隊が、ここを攻めてくると考えていらっしゃるのですか?」

 マイルスターは、再び参謀らしい質問をした。


「えっ?」

 エリオは、マイルスターの質問に驚いていた。


「えっ?」

 マイルスターは、そのエリオに驚いていた。


 どうやら、全く考えていない事を質問されたエリオと、全く考えていないとは思っていないマイルスターがそこにはいた。


 ……。


 ちょっと、微妙な間が空いてしまった。


 2人以外にも、その妙な空気が伝染した。


「あっ、あああ……。

 ないとは言い切れないね」

 エリオの口調は、まるでそんな事あったっけ?と言った感じだった。


(どうして、この人は敵の存在を脅威と感じないのだろう?)

 マイルスターは、エリオの言葉を聞いてそう思った。


 今だけではなく、色々な場面でそう言った態度を取るエリオを見続けてきた。


 戦っている最中でさえ、そう思う時がある。


 肝が据わっているというのは完全に筋違いの言いようだった。


 どちらかと言うと、何も考えていないという表現の方が正しいと思われる。


 でも、まあ、エリオ本人としては、一応、何事にも真剣に取り組んでいるという自負がある。


 しかし、やはり、漂う残念なオーラがそう思わせない。


「本当にそうなのでしょうか?

 先に接触してきたのは、単なる嫌がらせとは思えないのですが……」

 マイルスターは、そう言いながら無駄な事を言っている自覚はあった。


「うーん、だけど、やっぱり、戦闘にはならないよ」

 エリオは一応考えてはみたようだったが、マイルスターの意見をあっさりと否定した。


「それは何故でしょうか?」

 マイルスターは、この奇妙な空気を払拭する為にも、質問を続けた。


「補給線の事を考えると、ここで仕掛けるより、先の接触で仕掛けた方が理に適っている。

 だけど、先の接触では仕掛けては来なかった。

 あ、いや、手を出してこなかっただけで、実際には仕掛けてきた事になるか……」

 エリオは、修正を加えながら説明した。


 相変わらず、惚けた感じだった。


 いつものことなのだが、それでも、これまでの妙な感じは抜けてはいない。


「敵の意図は何でしょうか?」

 マイルスターは、エリオの説明に納得しながら、更に説明を求めた。


 これも、未だに抜けない奇妙な空気の為だった。


「まあ、嫌がらせだろうね」

 エリオは、溜息交じりにそう言った。


「……」

 マイルスターは、無言で苦笑した。


「とは言え、単なる嫌がらせではないね」

 エリオは、やれやれ感満載でそう言った。


 ちょっと、いつものエリオに戻ったか?


「もしかしたら、こちらの目的を的確に察知しているか知れない。

 いや、我々の目的を推察して、それを確認する為に、今、動いていると言った方が正確かもね」

 エリオは説明し切ったと言った感じだった。


 それを見たマイルスターは、少し安心した。


 勿論、妙な空気は依然として残っていた。


 だが、少なくともエリオの思考は全く鈍っていない事を確認できたからだ。


「それ故に、敵襲の懸念はないと?」

 マイルスターはダメ押しのように更に質問を重ねた。


 まあ、最後の確認なのだろう。


「今の所、考えなくてはいいだろう。

 それに、状況が大きく変わる要素も今の所見当たらない。

 まず、ないと言っていいと思う」

 エリオは、その確認の質問にきちんと答えた。


「了解しました」

 マイルスターは、口ではそう答えたが、納得していた訳ではなかった。


 質問した事に対する答えには納得はしていた。


 だが、やはり、妙な空気は全く晴れなかった。


 エリオの懸念はいつも最悪の形で具現化してきた。


(その懸念事項は、おそらく、閣下自身、言語化できないのだろうな……)

 マイルスターは、そう思うと、途端に不安に陥った。


(とは言え、この雰囲気は何とかならないのですかねぇ……)

 マイルスターは、エリオを見ながらしみじみと思った。


 視察されている側にも、妙な空気が伝わっているようだったからだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ