その1
ぱたぱた、ざぁざぁぁ……。
航海は順調だった。
視線の先には、孤島であるモルメイア島が確認できるようになっていた。
話は、エリオとサラサが遭遇した後の話である。
そして、更に話が進んで、ティセルからモルメイア島へと航海してきた時の話である。
と言う事は、更に時間が進んだ事になっている。
筆者は、とっちらかしすぎであると思われているだろう。
まあ、それはともかくとしてしよう。
航海が順調すぎて、やる事がないせいか、エリオはあまり言葉を口にしなかった。
興味がない時や喋る必要性がない時は、無理に話をするタイプではないので、口数はそれ程多くはない。
だが、今回は何か異質な雰囲気が漂っていた。
ただ、それは敵などの危険を察知している訳ではないようだ。
その場合は、先回りして指示が飛んでくる筈だからだ。
「……」
エリオは、無言で、ただ、ボケラッとしている風にも見える。
いや、見えるのではなく、ボケラッとしているだけだった。
「閣下、どうかなさいましたか?」
マイルスターは一応聞いてみる事にした。
傍にいるシャルスが全く気にする様子がない事から、そんな大した事ではないのかも知れないが、念の為である。
「ん?何でもない」
エリオは、心ここにあらずと言った感じでそう答えた。
マイルスターは、そんなエリオを見て、不安しかなかった。
今は、「漢のロマン」に向かって、突き進んでいる筈である。
なので、いくらエリオでも、希望に満ち溢れた表情になってもいいものである。
え、あ、まあ、エリオがそんな表情が出来るかどうかは、まあ、そのなんだ……。
ええっと、それはともかくとして、もうちょっとなんかあってもいいものだと、少なくともマイルスターは感じていた。
マイルスターは、取りあえず(?)、無言になった。
……。
エリオは、勿論、黙っていた。
シャルスは、暇そうにしていた。
まあ、いつのも風景なのだが、エリオの様子が気になるマイルスターは、居心地が悪かった。
そんな事を他所に、エリオは考え事をしていた。
いつまでも、ボケッとしている訳ではなさそうだった。
(それにしても、今回は、何か妙だな……)
近付く島を眺めながら、エリオは思った。
まずは直近の事を思い出していた。
そう、サラサに絡まれた件だ。
とは言え、それは大した事はないと思っていた。
まあ、絡まれ体質のエリオにとっては、日常茶飯事だったからだ。
艦隊戦になりそうな事案が、大した事ないというのは、傲慢すぎると思われた。
ただ、今回、絡まれた事は意外だったが、戦闘にならない事は、お互い、織り込み済みだったので、そう言う考えになるのだろう。
歴史上では記録されない海戦であるが、神経戦による海戦であるという認識は、エリオとサラサにはあった事は事実である。
それより気になるのが、ラ・ライレとリ・リラの態度であった。
リ・リラの方は、今回の事はあまり良く思っていないのは薄々感付いてはいた。
でも、今回はそれをストレートにぶつけてこない所は妙だと思っていた。
恨みがましいような、戸惑っているような、照れているような……、それはもう、複雑すぎる感情を感じ取れた。
エリオは、基本的には鈍いが、ただ鈍いだけではなかった。
でも、まあ、それより変だと思ったのが、ラ・ライレだった。
年の功か、と言っても、本人にそう言うと、怒りまくられるが、そのせいか、理(利)がある場合は、それ程反対はしない。
渋い顔をしながら、認めてはくれる。
だが、今回の妨害は首を傾げるものばかりだった。
その癖、長い時間は掛かったものの、自分の提案を全面的に受け入れた。
どうも、妙である。
それに、反対していたのに、一転して意気込み出したりしていた。
そして、極めつけは、何だか、切羽詰まっているような、焦っているような感じがした。
それに対しては、今思えば、嫌な予感しかしなかった。
それは、島が近付くにつれ、嫌な予感は強くなった気がする。
憧れの「漢のロマン」を実行しているのにも関わらずだ!
しっかし、まあ、正に、大伯母の心、大甥知らずといった感じなのだろう。
あ、それと、朴念仁も付け加えておこう。




