その10
ラ・ライレの予想通りに展開になった。
エリオとリ・リラは、出された課題のみを完璧にこなしてきた。
その間、2人の間柄に大きな変化はなかった。
それでも、ラ・ライレは諦める事はしなかった。
エリオが王都にいる時には、2人っきりになるように仕向け続けた。
(しっかし、ここまで仕向けても、変化がないとは……)
ラ・ライレは、ほとほと困り果てていた。
(とは言え、幼い頃からずっと一緒にいる事が当たり前なんだから、今更そんなに変わる事はないのかも知れませんね)
ラ・ライレは、ここが思案の為所だと感じていた。
ただ、変化がない訳ではなかった。
2人に、実務そのものの課題を与え続けたお陰で、後々の行政業務がスムーズに行く切っ掛けとなっていた。
まあ、それは後々の話である。
それは、国にとっては、有益極まりない話なのだが、今のラ・ライレにとっては些末な話である。
次にどう言う手を打とうか、考えなくてはならない。
でも、まあ、ここまで手間を掛けるのなら、いっその事、女王命令を出せばいいのではないかと思わなくはない。
当のラ・ライレもそれは何度も思っていた。
だが、これから長い人生を考えると、余計なお節介により、2人のスタートを壊してしまう方が不味いと思っていた。
(ならば、環境を激変させるのもいいのかも知れませんねぇ……)
ラ・ライレは、そう思うと、ふと、一つの計画書が目に入った。
それは、提出されたものの、長い間放置されていた「新東方貿易ルート」だった。
ラ・ライレは、それを手に取ると、「これだ」と思った。
そういう事で、エリオはモルメイア島へ派遣され、リ・リラは王都で留守番という事になったのだった。
どういう事でそうなったかというと、近付けてもダメなら、いっそこの事、遠ざけてしまおう作戦だ。
そうすれば、お互い、如何に大事な存在かが身に染みて分かるだろうという事だ。
斯くして、女王の壮大な計画は実行されたのだった。
「どうかなさいましたか?閣下」
ティセルを出港中に、マイルスターはエリオに聞いてきた。
エリオが何だか浮かない顔をしていたからだ。
冴えない顔をしているのはしょっちゅうなのだが、浮かない顔はあまりない。
区別が付くのかというと、近い人物以外付かないだろう。
「あ、いや、何でもない」
エリオはそうは言ったが、明らかに浮かない顔をしていた。
「そうですか……」
マイルスターは、総司令官がそう言った以上、それ以上は聞かなかった。
「漢のロマン」への旅路だというのに、浮かない顔をしているのは妙だとは思った。
だが、本当に不味い時は、聞く前に、手を打ってくるので、取りあえずはそのままにした。
エリオはエリオで、王都を出港する時のことを思い出していた。
ラ・ライレにしても、リ・リラにしても、妙だった。
(陛下は妙に気合いが入っていて、殿下は何時になくアタリがきつかったような……)
エリオは、人間関係を気にする質ではなかったが、この2人は別だった。
頭が上がらない存在ではあるが、特別な存在である。
ラ・ライレの気合いは、自分の計画に掛けているからである。
リ・リラのアタリは、自分はその計画に薄々気付いているのも関わらず、エリオの方はその計画に気付かない事に対してだった。
「進路上に、敵影なし。
周辺海域にも、同じく敵影なし」
シャルスがそう報告してきた。
エリオが、色々気にしている間にも、艦隊は進み続けており、全てが順調だった。
一時はどうなるかと思われたが、事は順調に進み始めていた。
こうなると、素直に希望を持って、進めばいいものである。
だが、その辺は、エリオである。
(これから、どうなってしまうのだろうか?)
気苦労が絶えないエリオだった。




