その8
「海軍総司令官としては、ダメダメでしょう」
リ・リラは、やはり、エリオをバッサリと切り捨てた。
「……」
予想通りの反応が返ってきたので、ラ・ライレは何も言わずに、苦笑した。
「とは言え、総司令官として、現地を見ておく必要性もあるのでしょう」
リ・リラは、切り捨てた後、舌の根も乾かぬうちにと言う感じで、逆の事を言った。
「!!!」
ラ・ライレは意外な言葉が出てきたので、興味深げにピクリと反応した。
「エリオの戦い振りを見た印象では、一見、好き勝手にやっているように見えます。
ですが、かなりの緻密さを求められるのだと思います。
その為には、色々な情報が必要という事なのでしょう」
リ・リラは、珍しくエリオを褒めていた。
(何だかんだ言っても、よく分かっているようですね)
ラ・ライレは、安心したように微笑ましく思った。
「しかし、地形や海流などの様々なデータは、エリオの手に渡っている筈ですよね。
あの子なら、それらを得るだけで、十分のような気がしますが」
ラ・ライレはそう意見してみた。
「そうなんでしょうが、戦いに関する空気というものが欲しいのかと思われます。
たぶん……」
リ・リラは、エリオの顔を思い浮かべながらそう言った。
確信はないが、間違ってはいないと思っていた。
「空気ですか……」
ラ・ライレは、リ・リラが思わぬ事を言ったので、驚いていた。
と同時に、何となく、分かるような気がしていた。
データは役に立つが、完全にする為にはもう一工夫が必要なのだろう。
「勿論、艦隊を指揮する者が現地に赴く事で、それらは得られるのでしょうが、現状では……」
リ・リラは、最後までは言わなかった。
「人材不足という事ですか」
ラ・ライレは、リ・リラの言いたい事を間髪入れずに、言った。
艦隊司令官は揃ってはいたが、任地に縛られており、自由に動ける訳ではなかった。
ある意味、今動けるのは、エリオだけだった。
「そういう事だと思います」
リ・リラは、ラ・ライレの言った事に同意した。
「クライセン一族の人材不足は、エリオのせいと言うより、サリオや祖父のフリオのせいですからね。
エリオを責める訳にはいきませんね」
ラ・ライレは、諦めたような感じで言った。
(お祖母様は、これで、エリオのモルメイア島行きの許可を出すのかしら?)
リ・リラは、エリオに対して援護射撃を行ってしまった事に、複雑な心境になっていた。
「でも、陛下、今の長はエリオなのですから、全責任はエリオ自身にあると思います」
リ・リラは、複雑な心境になってしまった故に、再びエリオに対してのアタリが強くなったようだ。
「ぶっ……」
ラ・ライレは、思わず、女王らしくない笑い声を上げてしまった。
やっぱり、そうなるのかと。
「それに、その辺の事は、既にエリオが何とかしようと動いているでしょう。
そういう事に関しては、目端が利きますから」
リ・リラは、今度はエリオのフォローに入った。
(やれやれ、上げたり下げたり、忙しいですね……)
ラ・ライレは、祖母として、リ・リラを微笑ましく思った。
「でも、不思議ですよね」
リ・リラは、ニッコリと笑いながらそう言った。
「???」
ラ・ライレは、リ・リラが何が言いたいのか分からないが、注目した。
「だって、戦いを避けて、商売に逃げ込もうとしているのに、却って、新たな戦いを呼び寄せているではないですか」
リ・リラは、エリオの間抜けさが心底おかしいと言った感じだった。
「???」
ラ・ライレは、依然、リ・リラが何を言いたいのか、分からなかった。
だが、ちょっと考えてみた。
「ああ、そうですね。
今回の計画は、ウサス帝国の独占状態を崩しますからね。
帝国とは、より厳しい対立となりますね」
ラ・ライレは、リ・リラの意図が分かったとばかりに、ニコリとした。
「……」
今度は、リ・リラが黙ってしまった。
ラ・ライレの言葉に、意外そうな表情をしていた。
「どうかしましたか?」
ラ・ライレは、リ・リラの思わぬ反応に驚いて、聞いてみた。
「陛下は、エリオが現地に赴くのを反対なさっているのは、帝国との抗争が激化するのを懸念しての事かと思いましたが、違ったようですね」
リ・リラは、自分の認識が間違っている事を述べていた。
(ああ……)
ラ・ライレは、残念なのはエリオだけではなく、リ・リラも相当残念だという事を再認識せざるを得なかった。




