その13
バンデリックは、目覚めた。
と同時に、自分が何故ベットで寝ているのかが分からないでいた。
長い変な夢のようなものを見ていた気がする。
サラサと初めて会った頃の思い出だった。
(しかし、真っ暗なんだけど、自分は起きているんだよな……)
バンデリックは、多分天井を見てるのだろうが、辺りが真っ暗なので、どういう状態か確認しようがなかった。
なので、起き上がろうとした。
「ぐっあっ!!」
バンデリックの全身に痛みが走った。
当然、その痛みで身体が動かせなかった。
痛みは、次から次へとやってきて、最早声さえ上げられなかった。
(!!!)
バンデリックは、痛みで何も考えられなくなっていた。
「バンデリック、起きたの?」
バンデリックのすぐそばで、サラサの声がした。
布団が、引っ張られる感触があったので、本当にすぐ傍にいる事が分かった。
「うぅぅ……」
バンデリックは、返事をしようとしたが、痛みで言葉にならなかった。
「ちょっと、待ってね。
今、灯りを」
サラサはそう言うと、暗い中を一直線に、扉のそばに向かった。
そして、扉を開けると、
「灯りを頂戴。
バンデリックが目を覚ましたわ」
と、廊下に声を掛けた。
タッタッタッタ……。
すると、しばらくすると、音で、それなりの人数が早足で、こちらに向かってくるのが分かった。
そして、その人達が部屋にバッと入ってくると同時に、部屋が一気に明るくなった。
「……」
バンデリックは、眩しいと思ったが、やはり声には出せなかった。
なので、目を閉じるだけだった。
それを見たサラサは、急に不安になった。
サラサは、バンデリックに駆け寄った。
「バンデリック、あんた、大丈夫なの?」
サラサは、不安そうにそう聞いた。
こんな場面で言うのも何だが、バンデリックの状態を見れば、大丈夫ではないのは明らかだった。
まあ、それだけ心配しているのだろう。
バンデリックは、眩しいながら何とか目を開けようとしたが、まだ、目が慣れていないと言った感じだった。
「うぅぅ……」
バンデリックは、何かしようとする度に、全身に痛みが走っていた。
「閣下、落ち付いて下さい」
今部屋に入ってきた初老の男が、サラサにそう声を掛けた。
「先生……」
サラサは、縋るような眼差しでその男を見た。
先生と呼ばれた初老の男は、ゆっくりとバンデリックに近付いた。
多分、医者なのだろうとバンデリックは察した。
「バンデリック殿が、お目覚めになった事は、良い傾向でしょう」
医者は、近付きながらそう言った。
……。
医者の一挙一動を、部屋にいた全員が、固唾を呑んで見守っていたため、沈黙が訪れた。
医者は、バンデリックの近くで立ち止まると、額に手を当てた。
「やはり、まだ熱がありますね」
医者が、冷静な口調でそう言った。
(ああ、やけにクラクラするのはそう言う事か……)
バンデリックは、医者に言われて、自分に熱がある事を自覚した。
周りの心配を他所に、気楽そうだと思えるが、本人は、深刻に受け止めていた。
「今は何より、安静が必要です。
無理に身体を動かそうとしないで下さい」
医者は、それから、そう告げた。
(いや、動かそうにも動かせないから……)
バンデリックは、そう訴えたかったが、声に出すと、また痛みで死にそうになるので、止めた。
でも、まあ、こうなってしまうと、医者がやれる事はほとんどない。
後で、聞いた所によると、全身打撲に、骨折と、とんでもない状態だった。
無論、この時は、バンデリックの負担になるので、状況は知らせなかった。
「そうですね、バンデリックにはゆっくり休んで貰いましょう……」
サラサも、これ以上、何も出来る事はないと悟って、そう言った。
「今は、そうして下さい」
と医者はそう言うと、
「何か、ありましたら、また、いつでも呼んで下さい」
と言って、ゆっくりと部屋から出ていった。
と共に、部屋に入ってきた人間達は、部屋を出て行った。
サラサはそれを見送ると、バンデリックの頬に触れた。
「本当に、目を覚ましてくれて、良かったわ」
サラサは、笑顔でそう言った。
だが、目が腫れていて、如何に、バンデリックを心配していたのかが、一目瞭然だった。
「……」
バンデリックは、感極まるものがあったので、何も言えなかった。
「そうね、寝るのだったら、部屋の灯りはいらないわね」
サラサは、珍しくと言っては何々だか、バンデリックに気を遣っていた。
そして、明るくなった部屋の灯りを一つ一つ消し始めていた。
「あ……りが……と……うござ……ま……す」
バンデリックは、痛みを堪えながら、サラサに礼を言った。
「そんな事いいから、今は、ゆっくり休みなさい」
サラサは、そう言いながら、最後の灯りを消した。
(兎にも角にも、生きて、お嬢様に会えて良かった……)
バンデリックは、サラサの残像を見ながら、しみじみそう思った。
第2巻は、ここで終了です。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
第3巻は、現在、鋭意(?)執筆中です。
ストック出来次第、アップしますのでよろしかったら、また、寄っていって下さい。




