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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
26.幼き時

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その12

「え?何故です?」

 サラサの問いにバンデリックが、戸惑っていたのは言うまでもなかった。


「……」

 サラサは、バンデリックの予想外の反応を見て、こちらも戸惑っていた。


 この時のサラサは、王都で受けたダメージからまだ完全に回復しておらず、どうしても否定的な考えが頭に浮かんでしまっていた。


 偉そうにしててもまだ7歳である。


「次期総領と同じ教育が受けられるのですから、俺としては良かったと思っています」

 そんなサラサを他所に、バンデリックは、戸惑いの表情から心底楽しそうな表情へと変わていた。


「!!!」

 サラサの方は、更に戸惑いながらも、安心した。


 と同時に、バンデリックをよく観察した。


 本当に、楽しそうに、素振りを再開していた。


(あ、こういうヤツなんだ……)

 サラサはその姿を見て、決心した。


「あのぉ、あたしの姿を見て、気味悪いと思わないの?」

 サラサは本当に聞きづらそうに、顔を背けながら言った。


 心なしか、いつもより声が小さかった。


「え?何でです?」

 バンデリックは、素振りを止めて、びっくりして固まっていた。


「あんた、王都育ちじゃない。

 あたし、王都では、異形の人間として、気味が悪いと言われたわ……」

 サラサは、そう言うとシュンとなってしまった。


 思い切って言ってはみたが、やはり、自分を傷付けてしまったようだ。


「いけい?気味が悪い?

 どうしてです?」

 バンデリックは、びっくりしながら、?マークを周囲に浮かべていた。


「この髪の色、この目の色!」

 サラサの声のトーンが上がった。


「気にしていらしたのですか?」

 バンデリックは、真面目な表情で、確認するかのように聞いてきた。


「……」

 サラサは、無言で頷いた。


 心なしか、身体が震えていた。


「うーん、よく分からないですが、どうしてです?」

 バンデリックは、真面目な表情で、更に確認するかのように聞いてきた。


「こんな髪の色、目の色をした人はいないじゃないの!」

 サラサは、ある意味無神経な確認に、憤慨した。


「ああ、そう言う事ですか!」

 バンデリックは、驚くと共に納得した。


「えっ……」

 サラサは、憤慨した後に、絶句していた。


 これまでもそうだったが、バンデリックは予想外の反応をしたからだ。


 だが、絶句しながら次の言葉を吐き出そうとした。


「でも、人と違うからといって、絶対に悪い事ではありませんよね」

 バンデリックは、サラサが口を開く前に、さらっと笑顔でそう言った。


「……」

 サラサは、機先を制されたように黙る他なかった。


「兄上には、人と違う所が、その人の長所になると言われています。

 まあ、まだ、自分にはよく分からないのですが、自分も何となくそう思えます」

 バンデリックは、語り出していた。


「……」

 サラサは、黙って聞いていた。


 出会って、初めての事だったからだ。


「お嬢様のその銀色の髪と赤い目は、間違いなく長所だと思いますよ」

 バンデリックは、笑顔でサラサにそう断言した。


「へぇ?」

 サラサは、呆気にとられていた。


 無論、思わぬ事を言われたからだ。


 その表情を見たバンデリックは、かなり意外そうな表情になった。


「お嬢様は、次期総領でしょ。

 誰とも違う姿は、目立ちますし、何よりもカッコいいじゃないですか!」

 バンデリックは、分かっていないなとばかりに、力説した。


「えっ……」

 サラサは、呆気に囚われすぎて、言葉が出てこなかった。


「いや、想像するだけで、ワクワクするじゃないですか!」

 バンデリックは、まだ分かっていないなとばかりに、更に力を込めて言った。


(ああ、あたしって、その為に、こういう姿で生まれてきたんだ……)

 7歳のサラサは、9歳のバンデリックの力説によって、そう納得した。


「あはははっ……」

 サラサは、大笑いした。


 納得してしまえば、もうどうって事もなくなった。


 それどころか、武器になる事も知らされた。


「でしょ!」

 バンデリックはサラサの様子を見て、納得してくれたので、嬉しくなっていた。


 思えば、この時、サラサは、バンデリックに対しての絶対的な信頼感を持ったのだろう。


 そして、父親以上に、我が儘が言える相手としての信頼の証が、ボディブローとして体現されるのであった。


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