その12
「え?何故です?」
サラサの問いにバンデリックが、戸惑っていたのは言うまでもなかった。
「……」
サラサは、バンデリックの予想外の反応を見て、こちらも戸惑っていた。
この時のサラサは、王都で受けたダメージからまだ完全に回復しておらず、どうしても否定的な考えが頭に浮かんでしまっていた。
偉そうにしててもまだ7歳である。
「次期総領と同じ教育が受けられるのですから、俺としては良かったと思っています」
そんなサラサを他所に、バンデリックは、戸惑いの表情から心底楽しそうな表情へと変わていた。
「!!!」
サラサの方は、更に戸惑いながらも、安心した。
と同時に、バンデリックをよく観察した。
本当に、楽しそうに、素振りを再開していた。
(あ、こういうヤツなんだ……)
サラサはその姿を見て、決心した。
「あのぉ、あたしの姿を見て、気味悪いと思わないの?」
サラサは本当に聞きづらそうに、顔を背けながら言った。
心なしか、いつもより声が小さかった。
「え?何でです?」
バンデリックは、素振りを止めて、びっくりして固まっていた。
「あんた、王都育ちじゃない。
あたし、王都では、異形の人間として、気味が悪いと言われたわ……」
サラサは、そう言うとシュンとなってしまった。
思い切って言ってはみたが、やはり、自分を傷付けてしまったようだ。
「いけい?気味が悪い?
どうしてです?」
バンデリックは、びっくりしながら、?マークを周囲に浮かべていた。
「この髪の色、この目の色!」
サラサの声のトーンが上がった。
「気にしていらしたのですか?」
バンデリックは、真面目な表情で、確認するかのように聞いてきた。
「……」
サラサは、無言で頷いた。
心なしか、身体が震えていた。
「うーん、よく分からないですが、どうしてです?」
バンデリックは、真面目な表情で、更に確認するかのように聞いてきた。
「こんな髪の色、目の色をした人はいないじゃないの!」
サラサは、ある意味無神経な確認に、憤慨した。
「ああ、そう言う事ですか!」
バンデリックは、驚くと共に納得した。
「えっ……」
サラサは、憤慨した後に、絶句していた。
これまでもそうだったが、バンデリックは予想外の反応をしたからだ。
だが、絶句しながら次の言葉を吐き出そうとした。
「でも、人と違うからといって、絶対に悪い事ではありませんよね」
バンデリックは、サラサが口を開く前に、さらっと笑顔でそう言った。
「……」
サラサは、機先を制されたように黙る他なかった。
「兄上には、人と違う所が、その人の長所になると言われています。
まあ、まだ、自分にはよく分からないのですが、自分も何となくそう思えます」
バンデリックは、語り出していた。
「……」
サラサは、黙って聞いていた。
出会って、初めての事だったからだ。
「お嬢様のその銀色の髪と赤い目は、間違いなく長所だと思いますよ」
バンデリックは、笑顔でサラサにそう断言した。
「へぇ?」
サラサは、呆気にとられていた。
無論、思わぬ事を言われたからだ。
その表情を見たバンデリックは、かなり意外そうな表情になった。
「お嬢様は、次期総領でしょ。
誰とも違う姿は、目立ちますし、何よりもカッコいいじゃないですか!」
バンデリックは、分かっていないなとばかりに、力説した。
「えっ……」
サラサは、呆気に囚われすぎて、言葉が出てこなかった。
「いや、想像するだけで、ワクワクするじゃないですか!」
バンデリックは、まだ分かっていないなとばかりに、更に力を込めて言った。
(ああ、あたしって、その為に、こういう姿で生まれてきたんだ……)
7歳のサラサは、9歳のバンデリックの力説によって、そう納得した。
「あはははっ……」
サラサは、大笑いした。
納得してしまえば、もうどうって事もなくなった。
それどころか、武器になる事も知らされた。
「でしょ!」
バンデリックはサラサの様子を見て、納得してくれたので、嬉しくなっていた。
思えば、この時、サラサは、バンデリックに対しての絶対的な信頼感を持ったのだろう。
そして、父親以上に、我が儘が言える相手としての信頼の証が、ボディブローとして体現されるのであった。




