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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
26.幼き時

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その10

 走り去った2人の後を、ヘンデリックは、ゆっくりと追った。


 行き先が分かっているためだ。


 まあ、場所は言うまでもないだろう。


 えい!えい!


 ヘンデリックが、道場に着く頃には、掛け声が聞こえてきた。


 そして、道場の窓から、ヘンデリックは、中の様子を伺った。


 邪魔しないようにとの配慮しての事だった。


 中には、10人程度の少年達が、素振りをしていた。


 サラサとバンデリックより、少し年上の少年達だった。


 まずは準備体操なのだろう。


 その中心には、サラサがいて、その隣にバンデリックがいた。


 サラサは、意気揚々、元気はつらつで、木刀を振っていた。


 とても楽しそうだった。


 王都で受けたダメージは完全に回復している様子だった。


 その隣のバンデリックは、必死に付いて行っているという様子だった。


 性格はマイペースなのだが、協調性がない訳ではない。


 なので、こう言う時は、こうやって必死について行く。


 とは言え、必死そうな表情とは言え、兄から見ると、こちらもとても楽しげだった。


 その後、打ち込み稽古などが続いた。


(自分も、こんな感じで剣の稽古をしたな……)

 ヘンデリックは、それらを懐かしそうに見ていた。


 そして、しみじみした気持ちになっていた。


「バンデリック、今日こそは、負けないわよ!」

 サラサの声が、道場に突然響いた。


 いつの間にか、準備運動は終わり、立ち会いの時間になっていた。


「はぁ」

 気合いが入っているサラサとは違い、バンデリックがゆっくりとサラサの前に立った。


 拒否権がないので、ある意味、諦めの心境かも知れない。


 そして、ゆっくりと構えた。


 と同時に、サラサが踏み込んできた。


 ぶん、かん、かん、ぶん……。


 突然、立ち会いが始まったので、バンデリックは慌てているのかと思いきや、冷静にサラサの攻撃を受け流していた。


 ある意味、バンデリックの性格が本領を発揮している場面だった。


 性格上、こういう場面が多い。


 なので、対処には慣れていた。


(バンデリックのヤツ、腕を上げているな……)

 ヘンデリックは、ニヤリとした。


 厳しく接しているとは言え、身内びいきがない訳ではない。


 とは言え、この時は、剣士として、冷静にバンデリックの力量を見極めていた。


(バンデリックの腕前は、2,3歳年上が相手でも十分に渡り合えるだけの力量はある)

 ヘンデリックは、サラサとバンデリックの立ち会いを見ながら、腕組みをしていた。


(なのに、お嬢様も結構やるものだな)

 ヘンデリックは、バンデリックの様子を観察しながらそう感じていた。


 とは言え、サラサとバンデリックの力量差は、歴然だった。


 しかしながら、バンデリックは、サラサの攻撃を受け流してはいたが、余裕があるという訳ではなかった。


 時には鋭い打ち込みがあり、それを明らかに警戒していた。


 どん!!


 サラサの鋭い踏み込みがあり、バンデリックの脳天を捕らえた。


 かああーん!!


 バンデリックは、床に転がったと思った瞬間、サラサの木刀が跳ね上げられていた。


「えっ!?」

 サラサが、驚愕の表情を浮かべていた。


 バーン!!


 そして、サラサが気付いた時には、手には木刀がなく、サラサの木刀は壁に叩き付けられていた。


 からんころん……。


 木刀が壁から床に落ちた音が、響いていた。


 しーん……。


 あまりの出来事に、周りも固まり、静かになっていた。


 どんどん!!


「あああ、もう、また、やられたぁぁぁ!!」

 サラサは、地団駄を踏んで悔しがっていた。


 ほっ……。


 それと共に、緊張仕掛けた雰囲気が一気に和らいだ。


 サラサは、そんな事を気にする様子はなく、木刀を走って取りに行っていた。


 バンデリックは、それを見ながら1人やれやれ顔をしていた。


 サラサが、後ろを向いた瞬間だったので、表情を表す事が出来たのは言うまでもなかった。


 サラサは、木刀を拾い上げると、バンデリックの方に向き直った。


「もう1本!」

 サラサは、そう言うと、木刀を構えた。


 バンデリックは、やれやれと言った感じで、構え直した。


 すると、すかさず、サラサは、バンデリックに襲い掛かっていた。


 ばん、かん、どん、ぶん、かん……。


 その表現が正しいように、バンデリックは防戦一方になっていた。


(お嬢様とバンデリック、互いにいい稽古相手になりそうだな……)

 ヘンデリックは、その光景を見て、笑顔でその場を去っていった。


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