その7
……。
しばらく沈黙が続いた後、意外にも先に口を開いたのは、リ・リラだった。
「ええっと、陛下、エリオの事ですよね?」
リ・リラは、妙に重くなった空気の中、口を開いた。
「えっ、ええ、その通りです」
その話をどう切り出したらいいか、思案しかねていたラ・ライレは当然驚いていた。
察しのいいリ・リラの事だから、自分が何の用で呼び出したかは分かっているだろうと思っていた。
だが、リ・リラが先にそれを言い出すとは思わなかった。
「やはり、そうでしたか……」
リ・リラは溜息交じりにそう言った。
確認するまでもないと言った感じだったのだが、敢えて口にしたと言った感じだった。
でも、ラ・ライレは何か違和感を感じた。
「エリオは、本当に、全く呆れますね」
リ・リラは、呆れながらも語気が強まっていた。
(わたくしは、同じように、あなたにも呆れているのですが……)
ラ・ライレはそう思ったが、口には出さなかった。
何か、おかしいなと感じながら、先に口火を切ったのはリ・リラだったので、主導権を握られた格好だ。
「『漢のロマン』だなんて、ふざけるのも程があります」
リ・リラは、憤りながら更に語気を強めた。
(ああ、リ・リラ、あなたは……)
ラ・ライレは口が開いたまま塞がらなかった。
まあ、言うまでもないのだが、どうして2人はこうなってしまうのだろうか?と言った気分である。
どう見ても、2人の仲を心配しているのは周囲であり、当人同士は何も考えていないのは明らかだった。
お年頃としては、それはどうなのだろうか?
とても残念である。
言うだけ野暮だが、話がラ・ライレの思惑とは違う方へと逝ってしまっていた。
「陛下、どうかなさいましたか?」
リ・リラは、ラ・ライレの態度を察したようだ。
察した分、エリオよりマシか?
いや、あまり変わらないかも知れない。
「で、あなたの見解はどうなのですか?
執務室ではずっと無言でいますが……」
ラ・ライレは、呆れながらもリ・リラの話に乗っかる事にした。
それも、解決すべき懸念事項の一つだったからだ。
とは言え、そんなに大した問題ではないという認識である。
「そうですね、『漢のロマン』とは無縁なものですね」
リ・リラは、エリオの事をバッサリと切り捨てた。
「はははっ、相変わらず、手厳しいですね」
先程までどんよりしていたラ・ライレも流石に笑う他ないようだった。
それにしても、リ・リラの態度は首尾一貫していて、残念である。
「陛下が甘やかしすぎかと思いますが……。
あいつ、調子に乗っていますし……」
リ・リラ自身、この発言はエリオへのライバル心から来ていると自覚していた。
(やれやれ……)
ラ・ライレは、エリオだけではなく、リ・リラにも呆れていた。
とは言え、それは横に置いておくことにした。
「まあ、それはさておき、新東方貿易ルートに関する計画、そのものに関してはどう思いますか?」
ラ・ライレは、呆れながらも極めて事務的な口調でそう聞いた。
「計画そのものは推進されるべきだと思います」
リ・リラはそう答えた。
東はウサス帝国に、西はネルホンド連合に貿易の覇権を握られている。
それを打開する為には、思い切った手が必要であるので、当たり前と言えば、当たり前だった。
そして、その計画は現在進行中で、問題があれば、その前に止められているからだ。
「とは言え、『漢のロマン』は無縁にして頂きたいと思っています」
リ・リラは、調子に乗っているエリオが余っ程気に入らないらしい。
そして、怒っている点が何かずれている感じもしない訳では無かった。
「ふっ……」
ラ・ライレは思わず、吹き出してしまったが、これは苦笑いだった。
(しかし、エリオへのライバル心は本当に凄いですね……)
ラ・ライレはそう思った。
勿論、これは賞賛ではなく、残念さからである。
「『漢のロマン』はさておき、エリオ自身がモルメイア島に赴く件に関してはどう思いますか?」
ラ・ライレは、この際、リ・リラの純粋な見識を確認する事にした。




