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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
26.幼き時

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その9

 サラサの教育期間の相棒として、バンデリックが選ばれて、1ヶ月程が過ぎた。


 その間、兄のヘンデリックには、バンデリックから何の知らせもなかった。


 ヘンデリックは、当然バンデリックの事が心配だった。


 あ、もちろん、何かやらかさないかという心配だった。


 だが、その心配を他所に、問題報告は皆無だった。


 それが、兄として、却って心配させた。


 ヘンデリックの性格と言うより、バンデリックの性格が起因している事は明らかだった。


 なので、ヘンデリックは、用事のついでにバンデリックを訪ねる事にした。


(あの性格だから、「便りのないのはよい便り」だと思うが……)

 ヘンデリックは、道すがらバンデリックの顔を思い浮かべながら、心配はないと確信はしていた。


 だが、思い出すのは間抜け顔ばかり。


 それが、却って、心配を増大させた。


 やはり、何かやらかしていないかと。


 同じ思考が頭をぐるぐる巡る中、ヘンデリックは、バンデリックの部屋がある長屋へ辿り着いた。


 すると、ちょうどバンデリックが部屋から出てきた。


 見ると、手には木刀が握られていた。


 2人は思わぬ出会いに、固まってしまった。


 ……。


「ええっと、兄上、お久しぶりです……」

 バンデリックは、沈黙を破った。


 これまでの経験上、どう考えても、兄の出現はバンデリックにとって、嫌な予感しかしなかった。


 となると、その嫌な状況を早く脱するべきだと、考えたのだった。


 これも、バンデリックなりの処世術だった。


 引き伸ばしても、事態が悪化する事はあっても、好転した事は皆無だったからだ。


「ああ、久しぶり……」

 ヘンデリックは、思わぬ挨拶に困惑していた。


 と同時に、バンデリックが何かやらかしたかという疑心暗鬼に囚われていた。


 こちらも経験上、神妙になったバンデリックは、ほぼ確実に怒られる態勢を取っている事は明らかだからだ。


 とは言え、思い浮かぶ事は、今回に限って、全くなかった。


 ……。


 2人は、妙な牽制のし合いで、再び沈黙した。


 怒られ慣れているとは言え、バンデリックは緊張していた。


 それを見て、ヘンデリックは、逆に緊張してきた。


 とは言え、やはり、怒る要素は思い当たらなかった。


「どうだ、こちらの生活は慣れたか?」

 ヘンデリックは、兄らしく、弟を気遣う質問をした。


 まあ、かなりぎこちなかったのだが……。


 とは言え、ヘンデリックは、本来、思いやりのある人間である。


 だが、兄弟間となると、どうも上手く行かない事は間々ある事である。


「あ、はい……」

 バンデリックは、バンデリックで予想もしなかった質問に戸惑っていた。


 ヘンデリックの真意を探るように見た。


 勿論、真意などという複雑なものはない。


 だが、しかし、経験上、バンデリックはそうせざるを得なかった。


「そうか……」

 ヘンデリックの方も、どう反応していいか、明らかに困っていた。


 なので、当たり障りのない言い方しか出来なかった。


 ……。


 三度、沈黙が訪れた。


 元々、2人の兄弟間の会話はあまり弾まない方ではあったが、それにしても、これは気まずかった。


 なので、2人は焦り出していた。


 とは言え、打開策はお互い見出せないでいた。


「バンデリック、何してるの!

 さっさと稽古するわよ」

 妙な空気の中、ヘンデリックの背後から、サラサの罵声が浴びせられた。


 2人はギョッとして、サラサの方を見た。


 サラサは、離れの入口で、木刀を片手に立っていた。


 それを見たバンデリックは、いつもならその罵声に備えるのだが、今回は救いの女神のような思いだった。


 罵声を浴びせられてはいないヘンデリックの方も、事態が打開できたので、ホッとしていた。


 やはり、妙な兄弟である。


「おっと、ヘンデリック、来ていたのね」

 サラサは、ヘンデリックを見ると、意外そうにそう言った。


 いるとは思わない人物がいたから当然だった。


 まあ、それはともかくとして、ヘンデリックはサラサの様子を見て、生き生きとしていると感じていた。


 王都から戻った時とは、真逆だった。


 ヘンデリックは、王都に長く居たので、サラサに接触する機会はなかった。


 それでも、王都にいようが、次期総領なので、サラサの噂はよく耳にしていた。


 その噂に基づくと、今の姿が、本来の姿なのだと確信した。


「ご機嫌麗しゅうございます、お嬢様」

 ヘンデリックは、サラサの方に向き直って、畏まって言った。


「ええ、ありがとう。

 お陰様で、毎日、元気に過ごさせて貰っているわ」

 サラサは、笑顔でヘンデリックの挨拶に応えた。


 その言葉に、ヘンデリックは、大いに安心した。


(どうやら、私の杞憂だったようだな……)

 ヘンデリックは、胸をなで下ろした。


 バンデリックが、サラサの役に立っている事を確信したからだ。


 さぞかし、バンデリックは得意になっているだろうなと、ちらっと様子を伺った。


 が、当然ながら、違った。


 バンデリックは、引きつった笑顔で直立不動でいた。


 無論、そういった態度でないと、どやされるからである。


 ヘンデリックは、この時、自分はとんでもない事をしたという罪悪感に囚われた。


「さあ、バンデリック、行くわよ!」

 サラサはそう言うと、離れを奥へと駆け出していた。


 バンデリックは、兄に一礼すると、それに遅れないように全力ダッシュをしていた。


 取り残されたヘンデリックは、唖然としたが、どこか安心しているようだった。


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