その7
安請け合い(?)したバンデリックの横で、なんとも微妙な表情をしていたヘンデリックがいた。
当然、バンデリックは、そこまで気が回らなかった。
まあ、歳が歳ですから、仕方がないですよね……。
とは言え、オーマは、かなり喜んでくれたので、大満足と言った感じだろう。
そして、と言う接続語が正しいかどうか分からないが、オーマの部屋を出ると、ヘンデリックに再び連れられて、屋敷の離れへと向かっていた。
当然、バンデリックは、何処に連れて行かれるかは知らなかった。
ヘンデリックの説明不足と言うより、バンデリックの察しの悪さから来るものかも知れない。
ただ、オーマの部屋を退出後、
「行くぞ」
とヘンデリックに声を掛けられただけだった。
そして、その後は、兄弟は黙って、黙々と、言葉を交わす事なく、沈黙したまま歩いていた。
本館を出て、離れの前の衛兵達に敬礼した後、入ると、奥へ奥へと向かっていた。
本館のピリッとした緊張感とは別に、緩やかな空気が漂っていた。
バンデリックは、その空気に安心していた。
ヘンデリックは、バンデリックを一番奥の部屋へと連れて行った。
対照的に、ヘンデリックは、緊張したままだった。
ヘンデリックは、その部屋の前で立ち止まった。
当然ながら、それに倣ってバンデリックも立ち止まった。
間抜けた戸惑いの表情を浮かべながら。
ヘンデリックは、一旦大きく深呼吸をすると、諦めたかのように、ドアをノックした。
「お嬢様、ヘンデリックです。
愚弟のバンデリックを連れて参りました」
ヘンデリックは、畏まった口調でそう言った。
「どうぞ、お入りなさい」
部屋の中から、少女の威厳に満ちた声が聞こえた。
バンデリックは、この時、ようやく自分がとんでもない事態に陥っているのを知ったのだった。
「失礼致します」
ヘンデリックは、そう言うと、ドアを開けた。
そして、バンデリックに一緒に入るように促した。
バンデリックは、導かれるまま部屋に入った。
部屋に入ると、昨日、港で見掛けた銀髪の少女がいた。
それに驚いていると、後ろでドアの閉まる音がした。
それは、退路を断たれた音に聞こえた。
要するに、ようやく事態に気付き始めたと言う事だ。
「お嬢様、これが愚弟のバンデリックです」
ぼやぼやしているバンデリックを、ヘンデリックが紹介した。
バンデリックは、当然のようにキョトンとしていた。
「おっほん!」
ヘンデリックは、咳払いをしてバンデリックを睨み付けた。
「え、あ、バンデリックと申します。
よろしくお願いいたします」
バンデリックは、慌ててそう言った。
とは言え、当の本人は何をよろしくするのかは全く分かっていなかった。
雰囲気的にそう言っただけだった。
「ええ、よろしくね」
サラサは、笑顔でそう応えた。
可愛い笑顔ではあるが、どこか威厳のあるものだった。
(何か、緊張感があるな……)
そう感じたバンデリックは、不思議な感覚を覚えた。
サラサの方は、バンデリックの様子を気にする訳もなく、すぐに、真顔に戻った。
「バンデリック、あなたの部屋を長屋に用意させたわ。
あたしのこの部屋の近くだから」
サラサは、今度は事務的にそう言った。
「???」
バンデリックは、超展開について行けないという表情をしていた。
実際は、バンデリックだけが分かっていないだけなのだが……。
果たして、この先、バンデリックは無事人生を送っていけるのだろうか?
あ、まあ、答えは出てましたね……。




