その6
(俺……、何かしたかな?)
バンデリックは、遅ればせながらそう感じていた。
誰かと違って、全く鈍いという訳ではなかった。
まあ、それはともかくとして、呑気なバンデリック、心配なヘンデリックと対照的な兄弟がそこにはいた。
そして、2人の思惑は全く考慮されずに、話は進むようだった。
「サラサは7歳になった。
そこで、ルディラン家の跡継ぎとしての修行を開始する。
その修行相手として、バンデリックを選んだ訳だ」
オーマは、構わず話を進めた。
(閣下は何を仰っているのだろうか……?)
(この人は何を言っているのだろうか……?)
兄弟はオーマを見詰めながら、同時に同じ事を思っていた。
性格は大きく異なるが、流石に兄弟だという事なのだろう。
……。
そして、2人が沈黙したので、場に間抜けた空気が漂ってしまった。
その為、オーマも所在なさげに、返答を待つ事になった。
そのオーマの表情を見て、ヘンデリックは我に返った。
「待って下さい、それはいくら何でも人選ミスなのでは?」
ヘンデリックは、余っ程慌てていたのか、思わず本音が出てしまった。
「そうです、よりによって、何故自分のなのですか?」
バンデリックは、兄に呼応するかのように続けた。
だが、2人はハッとして、お互いの顔を見合わせた。
本来ならば、光栄な申し出なのだが、2人共バンデリックを思いっ切りディスっていたからだ。
「ぶぅ……」
ヤーデンは、兄弟の息が合っている所を見せ付けられ、吹き出さない訳行かなかった。
オーマもこれには呆れていた。
「ヘンデリック、そこは弟を持ち上げる所だろう。
そして、バンデリック、自分を貶めてどうするのだ」
ヤーデンは、注意していたが、愉快そうだった。
まあ、実際に吹き出していたのだから……。
兄弟はヤーデンが喋っている間は、ヤーデンの顔を見ていたが、言い終わると、気まずそうに顔を見合わせた。
「サラサは、親の私から見ても、才能がある。
だが、勝ち気すぎる所がある。
そういった人間を相手できるのは、結構限定されるのだよ」
オーマは、苦笑しながらそう言った。
(???)
当然のように、バンデリックは、何を言われているのか、分からなかった。
ヤーデンは、オーマの言っている事にうんうんと頷いていた。
なので、バンデリックは、オーマが言っている事は正しいのだと感じていた。
まあ、やっぱりよく分かっていないのだが……。
とは言え、これは今でもなく酷い話かも知れない。
才能は関係ないとはっきりと言っているようなものだから……。
「そう言う事ですか……」
ヘンデリックは、腕組みをしながら唸るようにそう言った。
(どういう事なのだろうか?)
バンデリックは、当事者である自分だけが分かっていないという事実を突き付けられていた。
だが、全く動じた様子はなかった。
それをヘンデリックは、横目で見ていた。
「確かに、仰る通りやも知れません。
そう言う事でしたら、我が愚弟は打って付けの人物でしょうな」
ヘンデリックは、スッキリした表情でそう言った。
とは言え、心中は複雑だった。
「どうだろうか?バンデリック。
この役目、引き受けては入れまいか?」
オーマは、バンデリックを見てそう言った。
(ああ、これは頼まれているのか!)
バンデリックは、感動していた。
そして、ヤーデンとヘンデリックもジッと自分を見ていたのだった。
これまで頼られた事がないバンデリックとしては、初めての感情が湧いてきていた。
とは言え、自分が与り知らない所で話が進んでいるような気持ちにもなった。
流石に鈍いバンデリックも、異様な圧を感じてはいた。
ただ、それが何の圧か分からなかった。
とは言え、まだ9歳。
自分がどう言う運命に巻き込まれているのか、想像は全く出来なかった。
それより、大人達に頼られていることの感動が頂点に達してしまった。
「分かりました。
やらせて頂きます」
バンデリックは、ちょっと、いや、大分有頂天になって、承諾してしまった。
そう、9歳のバンデリックは、もう引き返せない曲がり角を曲がってしまったのだった。




