その2
「そこのデカブツ!」
夕日を見詰めていて、いい気分になっていたバンデリックに突然罵声が。
「???」
バンデリックは、目の前の美しい夕日と罵声のコントラストに戸惑っていた。
普通ならムッとすると思うのだが、この頃から感性が、と言うより、性格が鈍かったのか、表情一つ変えなかった。
夕日に見とれた表情のままだったのだった。
「何で、お前はこんな所にいるんだ!」
銀髪の子は、忌々しそうにそう言い放った。
罵声に関しては、得意といった感じだった。
「???」
バンデリックは、まだ戸惑っていた。
何で罵声を浴びせられているかが分からなかったからだ。
と言いたい所だが、その子の言っているとおり、自分は何でここで夕日を見詰めていたのだろうか?と言った気持ちになっていたからだ。
「そもそも、お前、誰なの!?」
反応が薄いバンデリックに対して、益々ヒートアップしていった。
ある意味、この手の子に対して、一番やってはいけない態度なのかも知れない。
とは言え、鈍い頭の回転の中、バンデリックが何やら導き出していた。
「君、人に名を聞く場合は、自分から名乗るのが礼儀じゃないの?」
バンデリックは、やれやれと言った感じでそう言った。
あまりの態度の悪さに呆れていたのだった。
とは言え、怒ってはいなかった。
明らかに自分より年下だったので、ただの礼儀知らずとと感じ、年上の寛大さを見せた格好になった。
と言うより、明らかにバンデリックの性格がそうさせていたのだった。
まあ、怒っていると言うより、むくれていて、可愛さもあったのだろう。
「お前、あたしを知らないのか……」
銀髪の子は、呆れているような、いや、どちらかと言うと、絶望しているような表情をしていた。
「知らないも何も、初対面だよねぇ……」
バンデリックは、ますますやれやれ度を高めていた。
まあ、バンデリックの言い分は尤もだ。
2人は全くの初対面だったからだ。
「なっ……」
銀髪の子は、絶句していた。
(どういう事?)
バンデリックは、ここで初めてもの凄い違和感を感じた。
知っていない方がおかしいのかという衝動に駆られたからだ。
とは言え、初対面なので、知らないのは当然だという確信も依然強かった。
……。
となると、訪れるのは沈黙。
ピュー。
妙な隙間風が絶妙なタイミングで吹いた。
まるで、2人の気持ちをリセットするかのように。
「成る程……」
絶句していた銀髪の子は、ニヤリとした。
悪さを思い付いた表情なのだが、やはり、あどけなさが前面に出ていた。
「……」
バンデリックの方は、何故か追い込まれた気分になり、沈黙を続けていた。
それまで明らかに不機嫌だった人間がニヤリとするのは、人生経験が浅いバンデリックでも何となく察しがついたからだ。
そして、ニヤリとした事で、攻撃性が弱まった訳ではなく、溜め込んでいると言った感じを受けていたので、尚更だった。
ある意味のバンデリックの察しの良さは、この時から急速に身に付いたのかも知れないですな。




