その6
エリオの新東方貿易ルートの視察願いは依然続いていた。
まあ、エリオが何故反対されるのか、理由がよく分かっていないようだった。
リ・リラの方は、依然として沈黙を保っていた。
そんな膠着状態をラ・ライレは打開すべきかどうか、迷っていた。
エリオとリ・リラ、仕事に対する能力は年若いのに、人並み以上だ。
いや、身内びいきかも知れないが、トップクラスである。
しかし、その分、決定的に欠けている人格がある様な気がする。
気のせいと思いたいが、そうではない事は現状が如実に示していた。
(わたくしが若い時、こんな感じだったかしら?)
ラ・ライレは40年以上前の事を必死に思い出そうとしていた。
ラ・ライレの治世は、40年以上過ぎていた。
成人後、2年弱で即位し、成人時には既に婚約をしていた。
妹のラ・ライラも成人時には婚約していた。
2人共、成人前、と言うより、かなり前から相手が決まっていた。
そして、2人共、年を経る毎に、きちんと準備が出来ていた。
そう、その時は、どう考えても、今のエリオとリ・リラの関係とは全く違っていた。
(やはり、2人の精神的年齢が低いのが問題かも……)
ラ・ライレはそう考えると、頭が痛くなってきた。
2人は自慢の孫であったが、これほど悩みの種になるとは思わなかった。
能力が、仕事に対する能力に振り切れているせいか、自己の精神面の発達が十分ではないのではないかと感じていた。
リ・リラは、意外と見かけ倒しだし、エリオに至っては、5歳児の精神年齢ではないかと思っていた。
お互い、嫌い同士なら、「はい、そうですか」という事で、次に移れるのだが……。
だが、この場合、そうは行かない。
本当にまどろっこしい!
(いっそ、女王命令を出してしまおうか……)
ラ・ライレはそう考えると、意地悪い笑みを浮かべた。
2人の焦る表情がありありと想像できたからだ。
(でも、それはお節介以上に、2人の関係を壊してしまうかも知れないわね……)
ラ・ライレはそう思い直すと、再び深刻そうな表情に変わった。
人間関係は意外と壊れやすいものだという事を知っているからだろう。
それに、ある意味、現在の2人の関係を微笑ましく思っているせいかも知れない。
と同時に、このままではいけない事は確信していた。
「陛下、王太女殿下がお見えになりました」
部屋の外から、声を掛けられた。
「通して下さい」
ラ・ライレは扉に向かって、そう言った。
ガッチャ、きぃ……。
扉が開き、リ・リラが部屋の中に入ってきた。
そして、リ・リラが完全に中に入ると、扉が閉められた。
女王の自室には、祖母と孫娘の2人きりになった。
「リ・リラ、陛下のお召しにより参上致しました」
リ・リラは、ラ・ライレの前で立ち止まると、そう言って一礼した。
「まあ、お座りなさい」
ラ・ライレは柔らかな口調で、自分の前のソファに腰掛けるように誘導した。
「失礼致します」
リ・リラは、導かれるままに、ラ・ライレの前に腰掛けた。
祖母と孫娘は、向かい合わせで座る格好になった。
そして、会話は弾まなかった……。
……。
(さて、なんと話したらいいのやら……)
ラ・ライレは、リ・リラを呼びだしたものの、まずは何と声を掛けようか迷っていた。
「結構敏感な問題である」という認識があったからだ。
(お祖母様は、エリオの事でお呼びになったのだろうけど、さて、どうしたものか……)
リ・リラはリ・リラで、構えてしまっていた。
意外と緊張していた。
さて、祖母と孫娘の対話は上手く行くのだろうか?




