その13
サラサの指揮の下、船はデウェルへと向かっていた。
指揮権を持ったとは言え、はっきり言ってそれは大した事ではなかった。
シュメリグラズザルからデウェル間の航路を設定した時点で、選択肢は限られていた。
そして、その設定した航路を公開していく中で、当然、更に選択肢はなくなっていく。
海の上とは言え、敵地である。
動き出した以上、やり直しはきかないという点からも、やれる事はほとんどなくなっていた。
況してや、サラサ子飼いの戦列艦ではなく、商船である。
それだけでも、選択肢はかなり少なくなる。
とは言え、そんな事をあげ連なっていても、事態は好転しない。
よって、長々書いた事に対して、サラサは無関心だった。
「閣下、進路方向に、天候不順地域を確認。
このまま進みますと、嵐の中にまともに突っ込みます」
バンデリックは、サラサにそう報告した。
敵艦を振り切ってから数日後、再び難題が持ち上がった。
「それって、回避できるの?」
サラサは、バンデリックに聞いた。
「進路を南方向に向け、全力で遠ざかれば、巻き込まれるのは短時間で済むでしょう」
バンデリックは、一応そう答えた。
「ははは……」
サラサは、バンデリックの提案に乾いた笑いで返すしかなかった。
その進路を取ると、シーサク王国の沿岸に向かう事になるからだ。
「閣下、更に悪い知らせだ。
1時方向に、シーサク王国の軍艦を発見」
船長が、悪い知らせを報告してきた。
「正確な位置と数は?」
サラサは、報告を受けて、卓上の地図に目を移した。
「数は1隻、位置はここ」
船長が、地図上に敵艦の駒を置いた。
「ん?」
サラサは、意外そうな表情になった。
と同時に、考え込んだ。
「この距離と位置でしたら、1時間弱で接触する事になります」
バンデリックは、サラサにそう告げた。
「敵は小型艦艇?」
サラサは、バンデリックの言った事に頷きながら、船長に質問した。
「振り切ったヤツと比べると、遙かに小さいらしい」
船長は、曖昧にそう答えた。
船長にしてみれば、軍艦なんぞ、大きい小さいの程度なのだろう。
「こっちに向かってきているのよね?」
サラサは、確認した。
「それは間違いない」
船長は、今度ははっきりと断言した。
「哨戒艇ね。
こちらに向かってきているという事は、一応武装はしているようね」
サラサは、船長からもたらされた情報を元に、分析を行った。
そして、船首の縁に近付くと、片っ端から、縁をグラグラと揺らそうとした。
まあ、だからと言って、揺れる訳ではないのだが……。
船長は、その行動を呆気にとられて、見ていた。
バンデリックの方は、溜息しか出なかった。
「船の強度は問題ないよね……」
サラサは、そう呟いて、自分を納得させようとしていた。
「……」
船長は絶句する他なかった。
何がしたいのか、分からなかったからだ。
(いやいや、それで、船の強度なんて、分からないでしょう……)
バンデリックの方は、頭を抱えたかったが、忠臣である手前、平然とした表情を何とか維持していた。
いやいや、表情を崩した時の悶絶を想像すると、そうせざるを得なかった。
そして、これから何をしようとしているのかを完全に理解していた。
「進路、速度はそのまま」
サラサは、決断を下した。
「!!!」
船長は、気色ばんだ。
これまで、そういう表情をしなかったので、かなり焦ったのだろう。
「嵐を避けたいところだけど、下手に進路を避けると、砲撃を喰らいかねないからね」
サラサは、船長が何を言いたいかを察したように、その理由を説明した。
「うっ!」
船長は、絶句しながら反論の余地がない事を悟ったようだった。
(さて、これからどうなる事やら……)
バンデリックは、自分事なのに、他人事のように感じようとした。




