その9
とは言え、話はこれで終わりではなかった。
横にいた副盟主が、何やら盟主に封書を渡していたからだ。
一連の所作を、サラサは訝しげに見ていた事は言うまでもなかった。
「これは、我が連盟からバルディオン王国国王陛下に宛てた親書です。
陛下にお渡し下さるよう、お願い申し上げます」
盟主は、サラサに近付きながら、親書をサラサの目の前に差し出した。
「承りました」
サラサは、そう言うと、再び必要以上に恭しく、親書を受け取った。
それを見て、盟主は満足そうに微笑んだ。
(やれやれ、お嬢様は、更に警戒感を高めたな……)
バンデリックは、呆れながらも表情には出さずに、後ろから見守っていた。
同盟がならないのは、サラサが断定していたので、そうなのかなと言った感じで臨んでいた。
だが、サラサが来た以上、にべもなく断られて終わりという事は考えられなかった。
そして、その予想通りの事が起きただけなので、何もそこまで警戒する必要性を感じなかったのだった。
まあ、これはあくまでもバンデリック個人の考えである。
「では、我らはこれにて、帰国致します」
サラサは、親書を両手で持ったまま、そう言った。
もう、用は済んだと言う事だが、まあ、あからさまにそう言った態度を取っていた訳ではなかった。
(とは言え、頭の中ではそう考えているだろう……)
バンデリックは、いつも通りに呆れてしまった。
「そうですか、非公表のため、我らはここにて、お見送りをさせて頂きます。
道中、お気を付けて」
盟主は、残念そうな表情を浮かべていた。
儀式の通り一遍通りなのだが、それをきっちりとこなすところは流石である。
「ありがとうございます。
では、失礼致します」
サラサはそう言うと、一礼すると、踵を返して歩き出した。
バンデリックは、サラサが自分の横を通り過ぎる時に、一礼し、その後を追った。
2人はそのまま開けられた扉を通過した。
こちらも負けじと、2人は部屋を出るまで礼儀正しく行動した。
そして、2人が部屋から出ると、扉がパタンと閉められた。
「一段落という訳ではないですな」
副盟主が、口を開いた。
「そうね、彼らは無事に帰れるかしら……」
盟主は、ぽろっと本音が出てしまった。
と同時に、ハッとした表情になった。
ただ、すぐに、いつもの笑顔に戻った。
「確かにその通りですな」
副盟主が、盟主の表情の変化を見逃さなかったので、苦笑いした。
「別に、わたくしが情報を流したという訳ではありませんよ」
盟主は、いつも通りの笑顔で、白々しいと言った感じだった。
「分かっておりますよ」
副盟主は、再び苦笑いした。
と同時に、サラサの存在感が、盟主にして、こういった発言をさせている事を感じ取っていた。
「こう言った事は、こちらが気を遣っていても、何故か、必ず漏れ出すものですから」
副盟主は、如何にも不思議ですよねぇと言った表情だった。
「ふっ……」
今度は、盟主の方が苦笑いした。
だが、すぐに、真面目な表情になった。
「出来れば、ワタトラ伯には、無事に戻ってほしいのだけど……」
盟主は、いつもの笑みがなく、真面目な表情のままそう呟いた。
副盟主は、それが本音なのか、どうなのか、分かりかねた。
サラサとバンデリックの苦難は、正にこれから始まるというのだろうか?




