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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
25.死線

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その8

 予測していた事が無駄になる事はよくある。


 不測の事態に備えようとして、予測するのだが、いざ事に当たると、案外大した事がなかったと言う事は、間々ある。


 あ、まあ、そんな事はどうでもいいですね。


 サラサは、盟主の執務室ではなく、協議体の会議室へと通された。


 無論、傍らには、バンデリックがいた。


 会議室には、盟主がいるのはもちろんの事、その傍らには副盟主がいた。


 そして、その後ろには、メンバー全員がいた。


 非公開ではあるが、公式な場である事が直ぐに理解できた。


 つまり、これから言い渡される事は、トット連盟の総意によるものである。


 サラサは、バンデリックを従えて、盟主の前に進み出た。


 そして、立ち止まった。


「改めまして、バルディオン王国ワタトラ伯爵閣下、遠路、ご足労頂き、ありがとうございます」

 盟主が、まずは一礼した。


「とんでも御座いません」

 サラサが、続いて一礼した。


「協議体の結論が出ましたので、お伝え致します」

 盟主が、恭しくそう言った。


「はい」

 サラサは、短くそう答えた。


 これで、漸くモヤモヤ感から解放されると言った感じだった。


「結論から申し上げますと、貴国との同盟の件は、今は時期ではないと考えました」

 盟主は、正にやんわりと言った口調でそう言った。


 盟主はやんわりと言った筈だが、サラサにとっては、にべもなくは言い過ぎだが、率直に言われたと感じていた。


 驚いたり、嘆いてはいなかったが……。


「ただし、縁は大事にしたいと思っております。

 加えて、ワタトラ伯という重要人物を派遣して頂き、誠意を示して頂きました」

 盟主は、先程のやんわりとした口調で続けていた。


(重要人物……)

 当のサラサは、変な言葉に引っ掛かっていた。


 この辺は、エリオと似ている。


 自分自身が、王国の重要人物という認識が欠如しているのは明らかだった。


 自己評価が意外と低いと言えば、聞こえがいいのかも知れない。


 ただ、明らかに、この件に関する認識能力が欠如していた。


 とは言え、今はどうでもいい事かも知れない。


 と言う事で、この件は、これ以上は掘り下げない。


「ですので、同盟関係を結ぶには至りませんでしたが、勝手ながら、貴国との友好関係を深めたいと考えています」

 盟主は、同じやんわりとした口調で続けた。


「……」

 サラサは、予想外の事に驚いていた。


 傍らのバンデリックは、対照的に当たり前という表情をしていた。


 盟主は、直ぐに返答してこないサラサに、ニコリと微笑んだ。


 無言だったが、返答を求めてきているのは明らかだった。


「本国に持ち帰ってみないと、分かりませんが、我が国も同様な考えになると思われます」

 サラサは、盟主を立てるようにそう言った。


 だが、即答する訳ではなかった。


 一応、全権特使として、来ているので、これぐらいの事は決められる権限はある筈だった。


 当然、サラサが気付かない訳はなかった。


 サラサにしてみれば、目の前の人物がどうにも胡散臭いというか、まあ、どちらかと言うと、苦手意識があった。


 その為、警戒しての事だった。


「よしなにお願いします」

 盟主は、警戒しているサラサを気にも留めない風に、笑顔でそう言った。


 胸の内はよく分からないが、役者としては、サラサよりも遙かに上である。


 やはり、年の功か……。


「了解致しました」

 サラサは、それに対して、必要以上に恭しくそう言った。


 その言葉を聞いた盟主は、満足そうに頷いたのだった。


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