その7
協議体の方針は即決したのだが、サラサ達は直ぐに帰国という訳ではなかった。
連盟の方も外交的儀礼を考えたのだろう。
ただ、それだけではなかった。
実は、協議体自体の話し合いは、結論が出た後も続いていたのだった。
連日、協議体が断続的に行われているのは、サラサ達にも何となく雰囲気で分かっていた。
それを、サラサは不思議な面持ちで待ち続けていた。
結論は、サラサ達が到着する前に、出ている筈だった。
(親書に、何か、連盟側に有利になる事が書かれていたのか?)
サラサは、そう思わざるを得なかった。
当然、親書の中身は知らない。
だが、国王がオーマに相談せずに書くとは思えなかった。
となると、何か、連盟に有利な条件を差し挟むとは考えづらかった。
もう一人の相談相手が、とも考えたが、オーマ以上に、それはないと考えられた。
「どうかなされましたか?閣下」
バンデリックは、腑に落ちない様子のサラサに質問した。
サラサの腑に落ちない様子が、バンデリックには、腑に落ちなかったからだ。
「いや、やけに長引いているなと思っているのよ」
サラサは、表情を変えずに腑に落ちない様子と言った面持ちで答えた。
「国家の一大事ですから、長引くのは当然でしょう」
バンデリックはバンデリックで、同じように腑に落ちない面持ちでそう言った。
とは言っても、2人が考えている事は真逆である。
「ここは、国家と言うより、名前の通り、都市国家間の連盟よね」
サラサは、何となくと言った感じでそう言った。
待たされているので、気を紛らわせなかったのだろう。
「左様ですね。
都市間の同盟を結んでおり、有事に備えたと言うより、メジョス王国との戦闘に備えた常備軍も存在しています。
ネルホンド連合よりは、強固な軍組織かと思われます」
バンデリックは、サラサの話の流れに合わせるようにそう言った。
「そうね、ネルホンド連合はどちらかと言うと、個々の都市毎に、防衛組織はあっても、連合全体では持っていない。
その点では、即時体制が整っているわよね」
サラサは、バンデリックに同意するように言った。
言葉のキャッチボールをしながら、待たされている原因を探り出そうとしていた。
「今回、事が決まらないのは、そういった体制のせいなのでしょうか?」
バンデリックは、得心したように同意を求めてきた。
「……」
サラサの方は、当然、あんぐりとした表情を浮かべて、黙ってしまった。
バンデリックは、その表情を見て、あれ?という表情になった。
サラサは、バンデリックの表情を見て、今度は呆れたような表情になった。
とは言え、それを責める気にはならなかった。
「まあ、それはあまり関係ないでしょうね。
協議体制を敷いているのは、我が国も同様だしね」
サラサは、気を取り直すかのように、真面目な表情でそう言った。
とは言え、バンデリックの意見はしっかりと否定していた。
「そうですね……」
バンデリックは、バンデリックで考え込むようなポーズを取っていた。
バンデリックにとって、自分の意見が否定される事は慣れていたので、特に気にも留めていないようだった。
「どちらかと言うと、我が国より、こちらの盟主の方が、独裁性は高いのじゃないかしらね」
サラサは、バンデリックの態度に呆れる事は呆れたのだが、平常運転として、話の続きをした。
「……」
思わぬ言葉に、今度は、バンデリックが黙った。
「盟主は、どう見ても、伏魔殿の主と言った感じがしなかった?」
サラサは、ニヤリとしながらそう聞いてきた。
「確かに……」
バンデリックは盟主の姿を思い浮かべて、苦笑いする他ないようだった。
「つまり、完全にあのおばあちゃんが主導権を握っているのよ」
サラサは盟主の姿を思い浮かべると、地団駄を踏みたくなる思いであった。
「はっはっ……」
バンデリックはサラサの様子を見て、もう笑うしかなかった。
「そのおばあちゃんが、決めた事が覆る事はないわよ」
サラサは、そう断言した。
「……」
バンデリックは、先程とは打って変わって真剣な表情で頷き、サラサの言い分に完全に納得していた。
(確かに、そう考えると、妙ではある……)
バンデリックは納得はしたが、現状、置かれている状況が解決されていない事を感じざるを得なかった。
一応、バンデリックには、現状がおかしい事は説明できてはいた。
だが、解決された訳ではなかったので、サラサにモヤモヤ感が残っていた。
「閣下、それは……」
バンデリックは、ふと思い付いた事を言葉に出そうとした。
「ワタトラ伯爵閣下、失礼致します」
ノックの音と共に、部屋の外から案内人が声を掛けてきた。
「何でしょうか?」
サラサは、外の案内人に応えた。
「盟主様が、協議体の結果をお知らせ致したいとの事です」
案内人が、そう言うと、サラサとバンデリックは、目配せをした。
ここで、問題を解決しなくても、向こうから答えを明かしてくれるという共通認識だった。
「今、直ぐ、お伺いします」
サラサは、そう言いながら、歩き出していた。




