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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
25.死線

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その7

 協議体の方針は即決したのだが、サラサ達は直ぐに帰国という訳ではなかった。


 連盟の方も外交的儀礼を考えたのだろう。


 ただ、それだけではなかった。


 実は、協議体自体の話し合いは、結論が出た後も続いていたのだった。


 連日、協議体が断続的に行われているのは、サラサ達にも何となく雰囲気で分かっていた。


 それを、サラサは不思議な面持ちで待ち続けていた。


 結論は、サラサ達が到着する前に、出ている筈だった。


(親書に、何か、連盟側に有利になる事が書かれていたのか?)

 サラサは、そう思わざるを得なかった。


 当然、親書の中身は知らない。


 だが、国王がオーマに相談せずに書くとは思えなかった。


 となると、何か、連盟に有利な条件を差し挟むとは考えづらかった。


 もう一人の相談相手が、とも考えたが、オーマ以上に、それはないと考えられた。


「どうかなされましたか?閣下」

 バンデリックは、腑に落ちない様子のサラサに質問した。


 サラサの腑に落ちない様子が、バンデリックには、腑に落ちなかったからだ。


「いや、やけに長引いているなと思っているのよ」

 サラサは、表情を変えずに腑に落ちない様子と言った面持ちで答えた。


「国家の一大事ですから、長引くのは当然でしょう」

 バンデリックはバンデリックで、同じように腑に落ちない面持ちでそう言った。


 とは言っても、2人が考えている事は真逆である。


「ここは、国家と言うより、名前の通り、都市国家間の連盟よね」

 サラサは、何となくと言った感じでそう言った。


 待たされているので、気を紛らわせなかったのだろう。


「左様ですね。

 都市間の同盟を結んでおり、有事に備えたと言うより、メジョス王国との戦闘に備えた常備軍も存在しています。

 ネルホンド連合よりは、強固な軍組織かと思われます」

 バンデリックは、サラサの話の流れに合わせるようにそう言った。


「そうね、ネルホンド連合はどちらかと言うと、個々の都市毎に、防衛組織はあっても、連合全体では持っていない。

 その点では、即時体制が整っているわよね」

 サラサは、バンデリックに同意するように言った。


 言葉のキャッチボールをしながら、待たされている原因を探り出そうとしていた。


「今回、事が決まらないのは、そういった体制のせいなのでしょうか?」

 バンデリックは、得心したように同意を求めてきた。


「……」

 サラサの方は、当然、あんぐりとした表情を浮かべて、黙ってしまった。


 バンデリックは、その表情を見て、あれ?という表情になった。


 サラサは、バンデリックの表情を見て、今度は呆れたような表情になった。


 とは言え、それを責める気にはならなかった。


「まあ、それはあまり関係ないでしょうね。

 協議体制を敷いているのは、我が国も同様だしね」

 サラサは、気を取り直すかのように、真面目な表情でそう言った。


 とは言え、バンデリックの意見はしっかりと否定していた。


「そうですね……」

 バンデリックは、バンデリックで考え込むようなポーズを取っていた。


 バンデリックにとって、自分の意見が否定される事は慣れていたので、特に気にも留めていないようだった。


「どちらかと言うと、我が国より、こちらの盟主の方が、独裁性は高いのじゃないかしらね」

 サラサは、バンデリックの態度に呆れる事は呆れたのだが、平常運転として、話の続きをした。


「……」

 思わぬ言葉に、今度は、バンデリックが黙った。


「盟主は、どう見ても、伏魔殿の主と言った感じがしなかった?」

 サラサは、ニヤリとしながらそう聞いてきた。


「確かに……」

 バンデリックは盟主の姿を思い浮かべて、苦笑いする他ないようだった。


「つまり、完全にあのおばあちゃんが主導権を握っているのよ」

 サラサは盟主の姿を思い浮かべると、地団駄を踏みたくなる思いであった。


「はっはっ……」

 バンデリックはサラサの様子を見て、もう笑うしかなかった。


「そのおばあちゃんが、決めた事が覆る事はないわよ」

 サラサは、そう断言した。


「……」

 バンデリックは、先程とは打って変わって真剣な表情で頷き、サラサの言い分に完全に納得していた。


(確かに、そう考えると、妙ではある……)

 バンデリックは納得はしたが、現状、置かれている状況が解決されていない事を感じざるを得なかった。


 一応、バンデリックには、現状がおかしい事は説明できてはいた。


 だが、解決された訳ではなかったので、サラサにモヤモヤ感が残っていた。


「閣下、それは……」

 バンデリックは、ふと思い付いた事を言葉に出そうとした。


「ワタトラ伯爵閣下、失礼致します」

 ノックの音と共に、部屋の外から案内人が声を掛けてきた。


「何でしょうか?」

 サラサは、外の案内人に応えた。


「盟主様が、協議体の結果をお知らせ致したいとの事です」

 案内人が、そう言うと、サラサとバンデリックは、目配せをした。


 ここで、問題を解決しなくても、向こうから答えを明かしてくれるという共通認識だった。


「今、直ぐ、お伺いします」

 サラサは、そう言いながら、歩き出していた。


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