その6
別室では、連盟協議体が招集されていた。
トット連盟は、23都市が参加している都市国家群である。
各都市の内政は完全に独立しているが、外交は一致して対応する盟約が結ばれている。
そして、それを決定する機関が、連盟協議体である。
協議体は、各都市から代表者1名を派遣し、外交や各都市の利害調整を行う機関である。
盟主、副盟主は、その代表者達による選挙により、選ばれる。
「意外に早かったですな」
副盟主であるグルス・マドックが、盟主の登場に意外そうにそう言った。
「特使のお嬢さん……」
盟主がそう言い掛けたが、サラサの姿を思い浮かべると、軽はずみな言動を慎む事にした。
短いやり取りだったが、決して侮ってはいけない相手だと理解したからだ。
盟主は、自分の席に座りながら、気持ちを切り替えた。
「いえ、特使殿は、無駄を嫌うようでしたので、この場に早く参上できました」
盟主は、真剣な顔つきで、そう言った。
○○フェイスの盟主だが、真剣な表情がアンバランスという訳ではなかった。
寧ろ、緊張感を高める効果があった。
それは、普段、あまりしない表情だった事とも相乗効果があった。
「成る程……」
副盟主は、今度は、驚いた表情に変わった。
既に、方針は決まっており、緊張感というものが、欠けていたからだ。
協議体のメンバーが、俄に騒然となっていた。
他のメンバーも、副盟主と同様に、不穏な空気を察したのだろう。
「バルディオン王国国王陛下から親書を頂きました。
今から、秘書官に読み上げさせます」
盟主は、騒然となってきた空気を打ち消すように、張りのある声でそう宣言した。
!!!
すると、途端に、場が静かになった。
そして、盟主の斜め後ろで立っている秘書官が、親書を読み上げ始めた。
緊張して、聞く協議体のメンバーだが、聞き終わると、一気に何とも言えない雰囲気になった。
思っていた事と、まるで違ったからだ。
「盟主、これは……」
副盟主は、場の雰囲気そのものな表情をしていた。
「親書を受け取った時は、多少の期待があったのですが、見事に裏切られました」
盟主は、盟主で副盟主とは違った何とも言えない表情をしていた。
「はぁ……」
副盟主は、何を言っているんだという表情になった。
話の流れが掴めないからだ。
それは、他の都市代表も同じような顔をしていた。
盟主の口振りからは、親書には誰もが期待させられた。
だが、親書の内容は、親書が届けられる以前に予想されたものとほぼ変わらなかった。
という事は、期待外れという事になる。
「……」
盟主は、盟主で、何か考え込むような感じで、今度は黙ってしまった。
親書は読んだのだが、読み上げられたのを聞いて、改めてまた考える機会が巡ってきたと言った感じか?
……。
盟主が黙ってしまったので、場におかしな沈黙が流れてしまった。
誰もが、ここで沈黙する理由が分からなかったからだ。
「盟主、先方は、特に我々に対して、有利な条件を出してきませんでしたので、当初決めた方針でよろしいのではないでしょうか?」
副盟主は、盟主が黙ったままだったので、仕方ないと言った感じで、切り出す事にした。
「うん、まあ、そうなんでしょうね」
盟主は、快活にそう受け答えをした。
いつもの口調なのだが、表情が、いつもの表情ではなかった。
やはり、悩んでいるようだった。
「盟主、珍しいですね。
何か、他にご懸念なのですか?」
副盟主は、戸惑いながらそう言う他ないようだった。
「懸念ではないですけど、特使であるワタトラ伯を見て、それも面白いかなと思い始めています」
盟主は、ニヤリとした。
どう見ても、悪い事を考えている表情なのだが、それを見た一同は安心感が広がっていった。
変な空気である。
「『銀の魔女』、それ程の人物でしたか?」
副盟主は、驚いた表情をしていた。
「少なくとも、報告書以下の人物ではないと思われます。
見た目に、騙されてはいけない人物の典型例ですね」
盟主は、ニヤリとしたままの表情でそう言った。
「……」
副盟主は、呆れてしまい、何も言い返せなかった。
副盟主にして見れば、言った本人へブーメランが返ってきたのが、容易に想像できたからだった。
「興味深い人物だけど、やはり、連盟と王国の同士の事ですからね。
今回は、当初の予定通り、なしにしましょう」
盟主は、結局1周回って、元の話に戻した。
サラサの存在による変数は、エリオの予想通りだったが、結果は、エリオの予想を外す事となった。




