その5
まずは、客観的な分析が必要である。
両国は遠く、どちらの国にも相手の国まで遠征できる海軍力はない。
と考えると、同盟を結ぶ必要がないのかも知れない。
とは言え、形の上とは言え、同盟を組む事で、周辺国に影響を与えられる。
バルディオン王国にしろ、トット連盟にしろ、周りは敵だらけである。
そこに、この同盟関係がいい方向に作用する余地はある。
敵の敵が味方同士になるからである。
その辺、どう考えるかである。
「まあ、それはそうだけどね。
でも、同盟はメリットだけではないわよ。
敵対する勢力からは、警戒心を持たれるしね」
サラサは、今更ながらと言った感じでそう言った。
「実質的なものがないのに、警戒心ばかり増やしても仕方がないと?」
バンデリックは、考え込むようなポーズを取りながらそう聞いた。
「どちらに重きを置くかどうかなんだろうけど、ね」
サラサは、バンデリックの問いに、意味ありげにそう答えた。
「成る程……」
バンデリックは、考え込むようなポーズのまま、納得したような声を上げた。
「まあ、普通はそう考えるんでしょうけど」
サラサは、今までの話の流れを完全にぶち壊した。
でも、まあ、今まで散々と客観的な分析は行ってきた。
事、ここに至ってはもうそんな事を考えても無駄と言い放ったのと同等だった。
そして、盟主と対面した結果、サラサはもう結論を出してしまっていた。
「???」
バンデリックは、当然、絶句していた。
「あの盟主を見て、その考えは通用しないと感じたわ」
サラサは、笑顔と苦虫を噛み砕いたような複雑な表情になっていた。
「……」
バンデリックは、あまりのサラサの複雑な表情に、黙っていようと決意した。
「あの底意地の悪さは、恐らく、噂以上ね」
サラサは、そう断言した。
あまり、多くの会話を重ねた訳ではないが、そう結論を出していた。
「……」
バンデリックの方は、無言で、身構えていた。
敵意や悪意には必要以上に敏感であるサラサである。
相手の潜在意識まで勝手に入り込んでいくような勢いもある。
なので、この予感に対して後々に備えなくてはならない。
そして、その予感は、彼に完全防御姿勢を取らせていた。
だが、バンデリックの予感に反して、その後に続く、罵詈雑言が続かなかった。
この手の予感を外すとは、意外である。
「それに加え、この国に入ってから感じていたと思うけど、外国人と国内人をはっきり分けているようだから、あまりこう言う事には乗り気ではないみたいだしね」
サラサは、ここまでの道程を思い出していた。
特に、無礼な態度を取られた訳ではないが、余所余所しさを感じていた。
「成る程……」
バンデリックは、安心したように同意した。
何に安心したかは、まあ、どうでもいい事だ。
「それだったら、何故、我々をここまで来させたのでしょうかね。
断るなら、その前に断ればいいでしょうに」
バンデリックは、安心ついでに、本音を漏らした。
「その辺が、底意地が悪いという見方もあるわよ」
サラサは、今度は苦笑いしながらそう言った。
そして、
「だけど、非礼に当たるから、話だけでも聞こうという事になったのでは?
今後、同盟を結んだ方がいいという状況になった場合、出来るだけ、心証は良くした方がいいしね。
それと、今回、あたし達が親書を持ってきたけど、その親書に有利な条件が付けられる事も有り得ると言うことでしょうね」
と、忌々しそうに続けた。
「成る程……」
バンデリックは、サラサの意見に完全に納得した。




