その2
待たされるかと思いきや、サラサとバンデリックは一息つく間もなく、すぐに盟主の執務室へと案内されていった。
(やはり、この髪色だな……)
バンデリックは、サラサの後ろ姿を見ながらつくづくそう感じていた。
華奢な身体に、靡く銀髪。
バルディオン王国色のベージュ系のドレスで、正装していた。
普段は、軍服なので、新鮮だった。
(それにしても、何を着ても、お嬢様は似合うな……)
バンデリックは、何故か上から目線で、そう思っていた。
当然、サラサは、上から目線には敏感なので、何を考えているかまでは分からないまでも、そういった雰囲気を感じ取っていた。
そして、当然、不機嫌であった。
だが、当然、表情には出さず、仕草にも出さなかった。
当然、後ろも振り向かなかった。
案内人は、2人を先導しながら不穏な空気を感じてはいたが、こういう仕事をしている人間の性としては、何もないように振る舞っていた。
そんな中、案内人は、大きな扉の前で立ち止まると、2人の方を振り向いた。
2人は、同じくそこで立ち止まった。
「申し訳ございませんが、確認しますので、しばらくここでお待ちください」
案内人は、丁寧に2人に一礼した。
2人は、小さく頷いた。
案内人は、それを確認すると、扉の方に向き直って、ノックした。
「バルディオン王国ワタトラ伯爵閣下と、お連れの御方、お二方をお連れいたしました」
案内人は、部屋に向かってそう告げた。
今度こそ待たされると思っていた2人だったが、ここでも、すぐに両扉が開いた。
そして、扉を開けた両側にいる女官達が、深々とお辞儀をしていた。
「どうぞ、中にお入り下さいませ」
案内人は、2人に道を譲ると、手で中に入るように促した。
2人は、辺りを見回しながら、招かれるまま部屋の中に入った。
2人が中に入ると、案内人を廊下に残して、ゆっくりと扉が閉められた。
「ようこそ、トット連盟へ」
2人を歓迎する声が聞こえた。
「!!!」
サラサは、珍しく返答に困ってしまった。
後ろにいるバンデリックも困惑している様子が簡単に伝わってきた。
2人を歓迎した声の主は女性だった。
それは、予め知っていた事なので、そこに驚いていた訳ではなかった。
「私は、ユリア・リオフリンです。
トット連盟の盟主をしております」
盟主は、ちょっと世間知らずのオバさんのような口調で、ゆっくりと自己紹介をしてきた。
その事に対して、サラサはもの凄い違和感を感じざるを得なかった。
後ろのバンデリックは、依然として、困惑したまま突っ立っていた。
雰囲気を察すると、盟主は一見すると、世間知らずのお嬢様がそのまま歳を取った感じがする。
なので、もの凄い人当たりのいい感じがしない訳ではなかった。
何か、ややこしい言い方になっているが、そう感じるが、違和感も感じていたためである。
それにしても、歳不相応で若い……。
「……」
盟主は、何も返答がないサラサに、無言で微笑みかけてきた。
「失礼しました。
バルディオン王国、ワタトラ伯サラサでございます。
盟主閣下にお目にかかれて光栄です。
以後、お見知りおきを」
サラサは、自分が何をしに来たのかを思い出したかのように、自己紹介をした。
その言葉を聞いて、バンデリックは、我に返った。
(お嬢様が、圧されている……?)
バンデリックは、珍しくは思ったが、それに対して違和感を持った訳ではなかった。
それ以上に、目の前の人物に違和感を覚えていた。
それは波乱の幕開けを十分に予期させる物だった。




