その12
「その通りですよ、クライセン公」
ヤルスは、エリオの情熱(?)とは対照的に、冷静にそう言った。
あ、でも、この口調はいつもの口調であり、別に変わってはいない。
だが、エリオが珍しく、熱っぽく語るので、その対照差が浮き彫りになった形となったのだった。
「???」
エリオの方はなんと返していいか、分からなかった。
戦略の天才も所詮この程度であった。
今回は、闇が勝ったのやも知れない。
「……」
それに対して、ヤルスの方も何も言わなかった。
2人の会話が噛み合っていなかったのは、明白だった。
「つまり、2国にとって、同盟はメリットになり得る。
だが、必ずしも、と言うより、その同盟が締結される可能性は結構低いという事だ」
ロジオール公は、見かねて間に入った。
でも、まあ、この言い草は、エリオとヤルスの会話の流れを完全に断ち切っていた。
回りくどい言い方はせずに、もう結論を言ってしまったの方がいいと判断したのだろう。
「???」
エリオは、困惑の表情を浮かべていた。
どうして、自分の出した結論と真逆の結論が出てくるのかが、全く理解できないでいたからだ。
「トット連盟の盟主ユリア・リオフリンが問題になる。
代々の盟主は、排他的でだったが、彼女は、歴代でも一番排他的だ。
恐らく、同盟は成立し得ないだろう」
分かっていないと判断したロジオール公は、更に、言葉を続けた。
「???」
エリオは、そこまで言われても、まだよく分かっていなかった。
合理的な考えの権化であるエリオには、理解できない点である。
この辺が、エリオの欠点である事は言うまでもなかった。
まあ、元々欠点が多い人物なのだが……。
「まずは、そののぼせた頭を冷やす事ね」
リ・リラが、いきなり口を開いた。
先程まで、静かにしていたのだが、どうにも我慢できなくなったらしい。
と言うより、性格上、よくここまで我慢したと、周りは思っているかも知れない。
まあ、あくまでも、エリオ以外の面々にとってだが……。
「!!!」
エリオは、リ・リラに一喝された形になり、黙り込んだ。
こうなったら、理屈以前に納得する他なかった。
鈍いエリオでもそれぐらいは分かった。
「今回の事は、確かに注視する事象ですが、ロジオール公が指摘したとおり、まずは静観すべきでしょう」
リ・リラは、女王然のとした態度を取り直してそう言った。
態度を女王然とした事で、俄に混乱しつつあった空気が収まった。
あのままだったら、どうなっていたんだろうという雰囲気がそこらかしこに漂っていた。
「おっふぉん、わたくしも陛下のご意見に賛同します」
ラ・ミミは、わざとらしい咳払いをした後、そう言った。
明らかに、この流れを絶ってはならないという意思の表れだった。
それに対して、ロジオール公とヤルスも頷いた。
これによって、話の流れが決まった。
「無論、同盟が締結した場合の想定はしておくべきだと思います。
ただ、客観的に見て、トット連盟には、我が国に攻め込める海軍力はありません。
影響が、我が国に及ぶのは先の事になるでしょう」
ラ・ミミは、王嗣としての役割を果たすためにそう意見した。
この意見は、決して楽観的な意見ではなく、ラ・ミミが言っているとおり、客観的事実に基づいた意見だった。
なので、反論しようとする人物は、いなかった。
とは言え、エリオは、まだ何となく納得し難いといった感じだった。
一応、リ・リラに言われた黙ってはいたが……。
「クライセン公、確かに、交渉人であるワタトラ伯は、優れた軍人なのでしょう。
ただ、今回は、彼女が発案したものではないでしょう。
クライセン公、貴公と違って、彼女は、それ程主体的に動ける地位にはありません。
その事をもう少し考慮すべきでしょう」
ラ・ミミは、今度は、エリオのみに言い聞かせるようにそう言った。
(成る程……)
エリオは、完全には納得し難いと感じてはいたが、そういう見方もあると感じていた。
「では、次の議題に移りましょう」
ヤルスは、流れのままに、次の議題へと移した。
その後、内戦の後始末に関する事案が報告されたが、急速に収拾に向かっている事が示された。
また、マグロッド周辺では、スヴィア王国の補給路を巡っての戦闘が継続されている事や、ラロスゼンロはバルディオン王国が優勢である事が報告された。
以上、懸念事項が話し合われたが、今の所、問題なく対応できている事の確認が行われ、会議は終了となった。




