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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
24. 西の方向

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その11

 エリオは、主に南に目を向けていたが、それだけでは済まない事になっていた。


「バルディオン王国のワタトラ伯が、西に向かいました」

 エリオは、御前会議でそう発言した。


 会議が突然早まった事に対しての挨拶の直後だったので、他の面々は驚いていた。


 参加メンバーは、エリオ、リ・リラ、ラ・ミミ、ロジオール公、ヘーネス公ヤルスの5人だった。


 副将であるライヒ子爵マサオは、エリオの代わりに現地視察をしていて留守。


 同じく副将であるミモクラ侯クルスも、ロジオール公の代わりに現地視察をしていて留守。


 この2人は、未だ不安定な国内を見回る事により、国内の動揺を早く収める役割を担っていた。


 主席大臣であるヤルスの方は、まだ副主席大臣を任命していなかった。


 なので、この5人での開催となっていた。


 事態が飲み込めず、唖然としていた4人だったが、

「クライセン公、それはどういう意味を持つのだ?」

とロジオール公が、気を取り直す様な感じで質問をした。


 事前告知がなかったので、急に集められた面々からすると、勿体ぶられていた感があった


 ただ、マグロッドやラロスゼンロの事ではなく、況してや、自国の内乱の事ではなかったので、かなり拍子抜けしていた。


 当然、これらの事を話し合う予定ではあった。


 だが、それより先に、訳の分からない事を議題にするとは、4人は思わなかったのだった。


「まだ確認は取れていませんが、恐らくトット連盟との同盟に動いているのではないでしょうか?」

 エリオは、ロジオール公の質問に、沈痛な感じでそう答えた。


 現在、この事を阻止する手立てはない。


 仮に、事前に察知していたとしても、阻止する手立てはなかったように思われる。


 そう考えると、自分の無力さを思い知らされた感がある。


「シーサク王国との和平交渉という訳ではないのだな?」

 ロジオール公は、極めて冷静な口調でそう確認してきた。


「はい、隠密行動を取っているところから、間違いはないでしょう」

 エリオは、似合わない深刻そうな表情でそう答えた。


「成る程。

 それは一大事かも知れないな……」

 ロジオール公は、納得した。


 とは言え、口ではそう言っていたが、何か、歯切れの悪さを感じる口調だった。


 エリオは、その様子を見て、ちょっと拍子抜けした。


 それに、他の面々も同じような雰囲気だった。


 なので、流石のエリオも、次の言葉を発していいか、戸惑った。


「クライセン公は、バルディオン王国とトット連盟との同盟が成立した時に、我が国にどのような影響があるとお考えですか?」

 ヤルスが、単刀直入に聞いてきた。


 会議の雰囲気から、話が進まないと思ったのだろう。


 議長役としては、それは不味いと考えていた。


「敵勢力の強化に繋がると思いますが……」

 エリオは、何を今更といった感じで、戸惑っていた。


 だが、いくらエリオでも周りの空気のおかしさを感じていた。


 想像していたものとあまりにも違いすぎると。


「クライセン公は、トット連盟の国是というか、特徴をご存知ですか?」

 ヤルスは、おかしな空気の中でも、いつも通りの冷静な口調で質問を続けた。


「内向きで、あまり、外には出てこないような……」

 エリオは、トット連盟に関する情報を口にした。


 それに対して、他の面々は、うんうんと頷くような感じだった。


 トット連盟は、小集団が同盟を組み上げた集団である。


 ネルホンド連合と似たような国ではあるが、両方とも国という認識は希薄かも知れない。


 ただ、連合と連盟が大きな違いがあつ。


 連合は、交易を中心に国を発展させる気質があり、開かれている。


 対して、連盟は、連盟内の結束は強いが、排他的な点がある。


 また、同じ島国として、東のリーラン王国と、西のトット連盟と比較される。


 リーラン王国は、海洋国家である。


 トット連盟は、非海洋国家であり、あまり外に出ていくのを好まなかった。


 当然、エリオはその事を知っていた。


 エリオは、一応、戦略の天才であるが、闇深さもある。


 そのエリオから見ると、今日の世界情勢によって、トット連盟はこれまでの方針を十分に転換する可能性があると考えていた。


 いや、交渉人が変えるのではないかと考えていた。


 何より、トット連盟が、バルディオン王国と同盟を組む事のメリットの方が大きいと考えていた。


 そして、話が戻って、交渉人が交渉人である。


 何も考えずに、動くとは考えられなかったのだった。


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