その10
「何故、シーサク王国の王都に寄るのですか?
他の都市の方が、安全な気がしますが……」
マダックが、ティスザサーに上陸する寸前に、キヘイに質問した。
「木を隠すには森の中ですからね。
他の都市より、多くの商人が出入りしますので、我々みたいのは、意外と寄港しやすいのですよ」
キヘイは、笑顔でそう言った。
と言うより、他の表情はあまりない。
キヘイは、商人と言っても事務方なので、それ程愛想良くしなくてもいい筈である。
本人の性格なのだろうか?
「木なのでしょうか?我々は」
マダックは、リックと顔を見合わせながら、そう言った。
「大丈夫ですよ。
木と思えば、木になりますから」
キヘイは、断言した。
この言葉に、マダックは怪訝そうな表情になり、リックは呆れた様な諦めた様な表情をした。
そんな2人の気持ちを知ってか知らずか、キヘイは、ゆっくりとタラップを降りていき、上陸した。
「まあ、こんな機会でもない限り、平和裏にここに来る事はないでしょう」
リックは、前向きのような事を言って、キヘイに続いた。
「……」
マダックの方は、前向きにも解決にもなっていない事を悟りながら、無言で2人に続いた。
そして、3人は、荷の搬出作業に立ち会いながら、事務仕事を続けた。
それが、一段落すると、3人で、市場へと足を運ぶ事になった。
ティスザサーの第1印象としては、質実剛健な感じがした。
派手さはないが、やはり、王都である威厳みたいなものは感じられた。
こうして比べてみると、キンダザゥは、意外と活気があるのだなと、マダックは感じていた。
マダックが知っている外国の首都としては、ネルホンド連合のブリークワッスとウサス帝国のナラーバラ、それにスワンウォーリア法国のベロウの3つだった。
それぞれ特徴があり、全て異なる都市だった。
ブリークワッスは大陸一の商業都市であるので、活気がありすぎていた。
ナラーバラは、帝都としての威厳があり、国力を誇示するかのように、煌びやかだった。
ベロウは、特殊すぎてよく分からず、確かに宗教都市である事は認識できた。
(外国、特に、敵国をこうして訪れてみるのも、勉強になるものね)
マダックは、そう思いながら、周りの雰囲気を味わっていた。
3人は、市場の奥へと足を向けていた。
特に、当てがある訳ではなかった。
(敵国とは言え、当たり前だけど、普通に人々が生活しているわね)
マダックは、当たり前の事をしみじみと感じていた。
敵国の国民だからと言って、悪鬼やならず者と言った訳ではない。
ただ、そこに生活している人々がいるだけだった。
そう、大体は無害な人達である。
それを市場に来て、思い知らされた感があった。
そう考えると、戦争しているのが馬鹿馬鹿しくなってきた。
と同時に、だからと言って、座してやられる訳にも行かないという思いもあった。
(まあ、今はともかく、任務に集中するとしますか……)
マダックは、慣れない任務に翻弄されている自覚が十二分にあった。




