その4
「まずは、一つ一つ行きましょうか……」
ラ・ライレは、溜息交じりだが、縺れた糸を解きほぐす決心をしたようだ。
「え?」
エリオは、いつも通り、間抜け顔をしていた。
この大伯母と大甥、いつも認識のずれが生じているような気がする。
その為、放っておくと、話が変な方向へ向かいかねなかった。
その事をよく知っているので、大伯母は一つずつじっくりと行かなくてはならない事を十分認識していた。
対する大甥は、戦争の天才か、何だか知らないが、大概混乱させる側にいた。
しかも今回は、初めて調子に乗っていたので、始末が悪いかも知れない。
それに加えて、リ・リラの存在。
三竦みの状況が見事に完成されているようだが、話はそんなに単純ではない。
リ・リラは、一歩引いて見ているように見える。
だが、それは絶好の位置を保つためである。
仮に、ラ・ライレとエリオの間に合意が生まれても、あっさりとそれを無きものにする火力を存分に発揮できる位置にいた。
緊張感があるのかないのか、まあ、一言で言ってしまえば、混沌とした状況である。
気付いていないのは、間抜けが1人だけであった。
「まず、エリオ、あなたの提案ですが……」
とラ・ライレはいつになく慎重に話を始めたが、
「はい、漢のロマンです!」
とエリオが、調子に乗りすぎて、勢い余って、変な事を口走って、話の腰をバッキンした。
「……」
「……」
ラ・ライレとリ・リラは、呆れた顔で絶句していた。
「あ、いや、違った!」
エリオは、調子に乗っていたとは言え、自分が何を口走ったのか、ちゃんと自覚できていた。
(アホね)
(バカだ)
ラ・ライレとリ・リラは、口には出さないが、同時にツッコミを入れていた。
「あ、まあ、違くはないのか……。
言う順番が、違うのか……」
エリオは、調子に乗りすぎているせいか、話のまとまりに欠けていた。
戦場で、こんな事をやっていたら、間違いなく、お陀仏だ。
まあ、そんな事より、目の前の危機の方が重要かも知れない。
ラ・ライレとリ・リラは、当たり前の事だが、イライラし始めていた。
「説明致しました通り、私は、貿易の活性化の為の案を奏上しております」
エリオは、何とか持ち直したようだった。
ラ・ライレは、議論のスタートがようやく切れたようで、安心した。
対して、リ・リラは、冷たい冷たい視線をエリオに投げかけていた。
「エリオ、今回の案は、これまでの活性化案と、どう違うのですか?
西方の新しい拠点はクラセックに、東方の新しい拠点はその甥のマナラックに任せているのではないのですか?」
ラ・ライレは、まずはここからといった感じで質問してきた。
そう、「漢のロマン」の部分に切り込んだのだった。
有り体に言ってしまえば、そんなものはないと。
「はい、仰る通り、任せております」
エリオは、意気揚々と答えた。
その様子を見て、ラ・ライレは失望したのは言うまでもなかった。
話が通じていないと感じたからだ。
それはその筈。
ラ・ライレが「漢のロマン」を口にしなかったのは、完全なる嫌みだったからだ。
だが、それが全く通じていないのだから、困ったものである。
リ・リラの方は、言うまでもなく、微動だしないままだった。




