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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
24. 西の方向

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その9

 さて、朴念仁の方である。


 用を済ませたマイルスターが、エリオの執務室へと入ってきた。


 そして、自分の机に向かうのではなく、エリオの目の前に立った。


 手には、一枚の紙切れが握られていた。


「閣下、クラセックからの連絡がありました」

 マイルスターは、神妙であり、浮かない表情であり、何だか複雑な表情でまずはそう告げた。


「……」

 エリオは、取りあえず、無視する事を決めた。


 碌でもなく事に違いないと思ったからだ。


 それに、今は忙しい。


 反乱を鎮圧したとは言え、人事面での大きな移動があったばかりだ。


 そして、その移動で生じた問題を今は片付けていた。


 怠惰なエリオは、こうした事を見越していたのだろう。


 つまり、忙しくなる事を回避するために、ホルディム家を野放しにしていたとも言えた。


 とは言え、事が起きてしまった以上、収める為に、今はそれに奔走する他なかった。


 なので、クラセックの泣き言など、聞いている暇はなかった。


 しかし、それは、マイルスターも十分分かっていた。


 それなのに、敢えて、割り込んできた。


「閣下、クラセックの報告によると、不審船を見掛けたの事です」

 マイルスターは、構わず報告を続けると共に、エリオが反応するように仕向けた。


「不審船?」

 エリオは、予想しなかった言葉を聞いたので、書類整理の手を止めた。


 決して、サボりたいから、手を止めた訳ではない。


「はい、クラセックが、ネルホンド連合の首都ブリークワッスへ向かう途中に、見掛けたの事です」

 マイルスターは、小出しにするような言い方をした。


 と言うより、エリオが考える時間を作っているようだった。


「……西に向かったのか?」

 エリオは、しばらく考えてから、そう聞いてきた。


「ご明察のとおりです」

 マイルスターは、流石とばかりにそう答えた。


「うーん……」

 エリオは、完全に書類整理の手を止めた。


 この時点で、エリオは何かと繋げたらしかった。


「ワタトラ伯の不在は確認できているんだろ?」

 エリオは、急に違う質問をしてきた。


「はい」

 マイルスターは、短くそう答えた。


 エリオの参謀を長くやっているだけあって、質問には端的に正確に答えるようにしている。


 それによって、エリオの思考を邪魔しないようにしていた。


「その商船は、バルディオン王国からデウェルを経由してきた」

 エリオは、確認をした。


「仰る通りです。

 そして、アラスパザを更に経由しています」

 マイルスターは、エリオのか九人にそう付け加えた。


「……」

 エリオは、結論が出たが、一応頭の中で、再確認をしていた。


「その商船は複数筋から確認されています。

 法国沖と連合沖を担当している情報収集艦、駐法国大使であるローグ伯からも報告が来ていますから、情報の確証性は確かだと思われます」

 マイルスターは、エリオが再確認している間に、結論を導き出しやすい情報を次々と述べていた。


「それならば、事は明白だな。

 ワタトラ伯が、その商船に乗船している。

 秘密裏の外交特使としてな」

 エリオは、ようやく結論を口に出した。


 この結論は、大分前に出ていたが、あまりにも突拍子もない事なので、それなりの確認が必要だった。


「シーサク王国との和解でしょうか?」

 マイルスターは、そう質問した。


「うーん、それも考えられなくはないが、秘密裏にと言う事で、その更に西側だろうな」

 エリオは、確信を持っていたが、100%の断言はしなかった。


 100%の予測をしてしまうと、外れた時に、対応が難しいからだ。


 現に、予測を外してしまい、とんでもない目に遭っている過去がある。


 第3次アラリオン海海戦である。


 あの状況を予測しろというのが、どだい無理なのだが、あの海戦の事はずうっと引きずっていた。


「メジョス王国、いや、トット連盟ですか……」

 マイルスターの方は、エリオの感情を知ってか知らずか、エリオの出した結論に納得していた。


「ああ、連盟との同盟関係の模索と言った所だろうな……」

 エリオは、やれやれと言った感じで、最終的な結論を口にした。


「我が国の内乱、マグロッド陥落、ラロスゼンロ攻防戦、そして、バルディオン王国・トット連盟の同盟ですか……。

 些か、世界が動きすぎていると思いますが……」

 マイルスターの方も、珍しくやれやれと言った感じで言った。


 と同時に、その引き鉄を引いたエリオを非難がましく見詰めた。


「忙しい世の中になったものだ……」

 エリオは、マイルスターの視線を気にも留めない風に、他人事のようにそう言い放った。


 まるで、自分は巻き込まれ役のような感じでいた。


「……」

 マイルスターは、今度は引き気味でエリオを見詰め続けていた。


「シャルス、陛下と殿下、2公爵に、今日の御前会議を早めてもらえるかどうか、確認を取ってきてくれ」

 エリオは、傷心に浸っている訳にも行かないと思い、すぐに、指示を飛ばした。


「了解しました」

 シャルスは、それまでやっていた書類整理を止め、すぐに、部屋の外へと駆け出した。


 何も聞いていない様子だったが、命令が下れば、即実行するところが、シャルスの優秀なところである。


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