その7
クラセックは、洋上にいた。
勿論、自分の商船に乗っていた。
そして、船団を組んで、ネルホンド連合の首都ブリークワッスに向かっていた。
クラセックの商船上には、スワンウォーリア法国の旗がはためいていた。
クラセックは、デウェルを本拠地にした時から、法国の旗を掲げる事を許されていた。
それは、デウェルの宣伝を兼ねていたからだ。
クラセックが向かっているネルホンド連合は中立を旨としている
まあ、その中立地と言うより、貿易地といった方がしっくりくるかも知れない。
貿易を行う事により、莫大な富を築いている事からそう言った方がしっくりする。
そして、中立を旨とするのは貿易を盛んにする為でもある。
そういう方針なので、リーラン王国とネルホンド連合との貿易も盛んである。
ホルディム家のシェアが非常に高かったが、内乱後は、そのシェアのほとんどが、ネルホンド連合の商人達に持って行かれていた。
商売では信用が大事であり、新参者扱いのクライセン家系の商人は、すぐには信用される訳ではなかった。
とは言え、デウェルが商業港として、運用が可能になってきたので、巻き返すチャンスはあるとクラセックは考えていた。
これまで、西方貿易は、アラスパザを経由しての貿易が主だった。
それが、デウェルが出現した事により、そこを経由しなくても西方貿易は成り立つ事となった。
それにより、ネルホンド連合に寄る港の数が減らせる。
つまり、競争相手に払う経費を抑える事が出来るようになるのである。
後は、デウェルの港が如何に効率よく整備されるかに掛かっていた。
(なのに、不思議だよな?)
クラセックは、甲板で離れていく船団を見詰めていた。
船団は西の方へ向かっていた。
航路からしてアラスパザを出港して、シーサク王国のどこかの港に向かっている事は明らかだった。
そして、その中に、デウェルで見掛けた商船を発見していた。
アラスパザとデウェルは、貿易中継地点であり、比較的近距離にある。
なので、連続して寄港するのは、あまりない。
効率性を重んじる商人達は、そんな事をしないからだ。
まあ、ない訳ではないので、偶然それを見掛けたと言う事もあるが、クラセックにはそうは思えなかった。
妙な3人組の乗っている商船だったからだ。
寄港地を増やす事によって、ロンダリングをしているように思えたからだ。
(何をしようとしているか、分からないが、一応、公爵閣下にお知らせしておくか……)
クラセックは、そう決意するとともに、筆記用具を懐から取り出した。
そして、その旨を端的に綴ると、近くの者を捕まえて、連絡するように伝えた。
これは、リーラン王国の諜報網の一端でもあった。
軍船だけではなく、商船、そして、リーラン王国に関わる外国人までもが、その諜報を担っていた。
そう考えると、世界最大の諜報網を持っているのも頷けた。
だが、クラセックには別の意図もあった。
デウェルとアラスパザは競合関係にある。
ようやく、デウェルがアラスパザのシェアを奪い始めた段階である。
これを加速させるために、何でもいいから、色々な要素を必要としていた。
(取り纏め役としては、切っ掛けを多く作らなくては!)
クラセックの頭の中は、損得勘定で一杯になっていた。
この辺が、エリオがクラセックを使う理由でもあった。
損得勘定で動く人間程、エリオみたいな人間にしてみれば、計算しやすい。
とは言え、今回の事は、デウェルとアラスパザの関係には、影響をほとんど及ぼさないだろう。
(ま、それでも、公爵閣下の覚えをめでたくさせるのは、とてもいい事だ!)
クラセックは、今度は、別の損得勘定をしながら、笑みを浮かべるのだった。
クラセックにとって、エリオは孫のような年頃だが、命を助けられていることもあって、完全に主従関係が出来ているようだ。




