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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
24. 西の方向

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その6

 マダックとリックを乗せた商船は、デウェルを出港した。


 次の行き先は、ネルホンド連合のアラスパザだ。


 船団は入れ替わりがあったものの、合計7隻に増えていた。


 船団の国籍も増えているようだが、その辺は不明な点も多かった。


 そもそも、マダックとリックの乗った商船もどこの国の所属かと言われると、どこだろうという感じの商船だった。


 その為、今回のような任務を行いやすかった。


「それにしても、デウェルはあんな街だったの?」

 マダックは、狭い部屋の中でいきなり口を開いた。


 キンダザゥからデウェルの航路、デウェルに上陸した時もほとんど口をきかなかったので、リックはちょっとびっくりした。


 すぐには、答えないリックをマダックは不満そうに睨み付けた。


 この辺は、変装していても性格は早々変えられないらしい。


 と言うより、まあ、有り体に言ってしまえば、別人になりきるという才能はほとんどないと言った方がいい。


 なので、これまでマダックがあまり口をきかなかったのは、用心のためだった事は書き示しておく。


 自覚はあっただけ、マシだろう。


 その用心していたマダックが口をきいたのは、この部屋の傍には限られた人間しか来ないことが判明したからだ。


 来る時間は決まっているし、来る人間も決まってもいた。


「ええっと、どういう事です?」

 リックは、マダックが口をきいたのに驚いたのと、何がききたいのか分からなかったので、戸惑っていた。


「口の利き方!」

 マダックは、リックの質問には答えずに、言い方を注意した。


「へぇ?」

 リックは、マダックの思わぬ反応に、間抜けな表情を晒した。


「俺達の関係は?」

 マダックは、呆れたようにそう聞いてきた。


 と言っても、マダックの方の声色も変わっていないので、リックは呆れた。


「ああ……、兄弟……」

 リックは、設定を思い出した。


「そう、気を付けてね、お・に・いちゃん」

 マダックは、飛びっきりの笑顔でそう言った。


 ロリっ子に「おにいちゃん」呼ばわりされると、ときめいてしまうことが多い諸兄。


 だが、リックは、恐怖せざるを得なかった。


 とは言え、マダックの男装は、男装になっていないなと感じていた。


「あ、はい……」

 リックは、了解した気でそう答えた。


 だが、当然、また睨まれた。


「おほん」

 リックは、気を取り直すかのように、咳払いをした。


(ボロが出ないように、気を引き締めないと!)

 リックはそう思うと、表情を作り直した。


「で、デウェルの街がどうしたんだい?」

 リックは、兄の威厳を前面に出そうと努力した表情をした。


 それに対して、マダックは、頭を抱えそうになった。


(まあ、器用な方ではないから、仕方がないか……)

 マダックは、そう思うと、取りあえずは良しとしようとした。


 その微妙な雰囲気を察したリックは、困惑が表情に出ないように努めた。


 とは言え、兄という立場になった事はないリックにとって、難しい事なのかも知れない。


「寒村の港町と言った感じがしていたけど、今や、立派な貿易港に変わりつつあるよね」

 マダックは、リックの態度は気にしない事にし、言いたい事を付け加えた。


「確かに、そうなっているね。

 リーラン王国がかなり肩入れしていると聞いている」

 リックは、マダックのいう事に対して、そう応えた。


「うーん……」

 マダックは、リックの言葉を聞くと、考え込んでしまった。


 まあ、「リーラン」という言葉に引っ掛かっているのは明らかだった。


 とは言え、リックにとっては、何に引っ掛かっているかがよく分からなかった。


「ま、それによって、我々は恩恵を受けている訳だしね」

 リックは、ちょっと探るようにそう言った。


 商人の話から言えば、歓迎しているという感じの会話になる。


 だが、国の中枢を担う人物としては、裏を読まなくてはならないのだろう。


 しかし、今回の任務としては、スワンウォーリア法国に寄れる事は、偽装という点ではかなりの利点である。


 そういう意味では、敵の施設を有効活用できたので、喜ぶべき事だとリックは思っていた。


「モルメリア島でも、同じ事を行っている」

 マダックは、ボソッとそう言った。


「成る程、リーラン王国は、商売を世界中で行う気だね」

 リックは、マダックが感じている事がようやく分かった。


 今は、仮の商人だが、一応、商人の末裔である。


 こう言う事に関しては、一般の人よりは目先が利く。


 そして、マダックが、リーラン王国の事を羨ましがっている事も察した。


 確かに、傍から見ると、リーラン王国の未来はバラ色のように思える。


 その中心には、ライバル心を燃やす人物がいる。


 そう考えると、マダックが心中穏やかならざる事は、明白である。


(お嬢様、お互い立場が違うのだから、それは致し方がない事だと思いますが……)

 リックは、そう思ったが、当然口には出さなかった。


 単純に怒られるし、現在の立場からは、口にしてはならない事だった。


 そして、何より、マダック自身が良く分かっている事だからだ。


「でも、まあ、今は、自分の仕事に専念しよう」

 リックは、今の任務に集中する事を促した。


「了解」

 マダックは、短くそう答えた。


 そして、目の前の書類整理に再び取り掛かった。


 それにしても、乗船前は、2人は本当に事務仕事をやらされるとは思ってはいなかったのだった。


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