その4
トントン。
バンデリックが考えている中、船長室のドアをノックする音が聞こえてきた。
サラサの方は、バンデリックが何か考えている事は気付いていた。
だが、どうでもいい事を気にしていると見抜いていた。
流石にサラサである。
と言うか、バンデリックが残念なだけである。
「船長、キヘイです」
ドアの外からは、そういう声がした。
「入ってくれ」
船長は、外の人物に中に入るよう指示を出した。
「失礼しますよ」
キヘイと名乗った人物が、ドアを開けて入ってきた。
キヘイはドアを閉めると、奥へと入ってきた。
「失礼しますよ」
キヘイは、狭い船長室をサラサ達の横を擦り抜けて、船長の横に立った。
「紹介しよう、事務長のキヘイだ。
事情は、この船では、私とこのキヘイのみが知っている」
船長は、キヘイをそう紹介した。
「はい、よろしくお願いします」
サラサは、ぺこりと頭を下げた。
それに合わせて、バンデリックも頭を下げた。
「キヘイ、事前に話したとおり、マダックとリックは、お前の下で働いて貰う」
船長は、さらりと2人に仕事を割り振った。
マダックとは、サラサであり、リックは、バンデリックである。
一応、男装しているので、名前も男にしているようだった。
マダックは無表情だったが、リックはやれやれと言った感じだった。
「事務長といっても、事務仕事は私1人でやらされていたので、2人共大いに歓迎しますよ」
キヘイは、笑顔で諸事情をぶっちゃけていた。
「……」
「……」
当然、2人は反応に困ってしまった。
「では、早速、仕事に取り掛かってくれ」
船長はそう言うと、3人と共に、船長室を出た。
そして、船長はそのまま、甲板へと向かった。
「我々はこちらですよ」
キヘイは、そう言うと、マダックとリックを伴い、船の奥へと向かった。
しばらく、無言で3人は奥へと歩いて行った。
それから、キヘイは一番奥の部屋で立ち止まった。
「2人は兄弟という事で、この部屋を割り当てられています」
キヘイは、その部屋の前で立ち止まると、2人を先に中に入れた。
部屋は狭く、最低限の寝起きが出来る程度だった。
なので、キヘイが入ると、もうギュウギュウといった感があった。
しかし、機密性を考えると、部屋のドアを閉める他なかった。
マダックとリックは、顔を見合わせながら、すぐに仕方がないと言った雰囲気になった。
「仕事はここで行って貰いますので、他の船員の目に触れることはあまりないでしょう」
キヘイは、説明をし始めた。
「他の船員への挨拶は、しなくていいのですか?」
リックは、キヘイにそう聞いた。
「特にいいです。
あなた方2人が来た事は、周知していますが、特に気にしないでしょう。
と言うより、他の船員への詮索はお互い御法度となっております。
挨拶程度は交わしますが、こういった船ですので、色々な人材がいるという事で、納得して下さい」
キヘイは、聞いてもいない事まで答えた。
と言うより、この船の掟がある事をサラッと説明していた。
「分かりました」
リックは、取りあえずそう答えた。
その反応に、キヘイは満足したように頷いた。
マダックにしろ、リックにしろ、余計な揉め事が避けられるので、寧ろ歓迎すべき掟だった。
「では、私は隣で執務を行っていますので、何かあったら来て下さい」
キヘイはそう言うと、ドアを開けて外に出ていった。
が、ドアを閉めようとした時に、顔だけ、部屋の中に入れ直してきた。
「すみません、言い忘れたのですが、早速、そこに積み上がっている書類整理をお願いします」
キヘイは、改めてそう言うと、今度こそ、部屋から出ていって、ドアを閉めた。
2つのベットの間にあるテーブルの上には、積み上げられた書類があった。
マダックとリックは、やれやれと言った感じで顔を見合わせた。




