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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
24. 西の方向

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131/173

その1

 太陽暦536年3月、エリオは王都を動けないでいた。


 海軍の総司令官、陸海軍の統括責任者としては当たり前の事である。


 だが、当の本人にはその認識がないらしく、動けない事をストレスに感じていた。


 まあ、ストレスに感じているだけならまだしも、上手く行っていないのはそのせいだという認識さえ、持つようになっていた。


「酷いものだな……」

 エリオは、報告書を片手にしかめ面をしていた。


「はぁ……?」

 斜め前の席で自分の執務を行っているマイルスターが、エリオの態度に何と答えていいか、分からないといった表情だった。


「……」

 その隣で、同じく執務を行っているシャルスは無言で、自分の仕事をこなしていた。


 いつも通り、何のリアクションもなかった。


「!!!」

 エリオは、次の言葉を発する事なく、報告書を睨み付けていた。


 何やら不審な点を発見したのかと思う程、ジッと見ていた。


(やれやれ……)

 マイルスターは、呆れるというか、諦めると言っていいか、何とも言えない表情になった。


 エリオの見ている報告書は、貿易統計の報告だった。


「酷いものだな……」

 エリオは、同じ言葉を繰り返した。


 だが、周りの反応を待っている様子はなかった。


 なので、逆に、マイルスターは口を開かざるを得なかった。


「閣下、如何なさいましたか?」

 マイルスターは、仕方ないといった感じでそう言う事にした。


 質問されたエリオは、報告書から目を離して、マイルスターを見た。


 声を掛けられるとは思っていなかったという表情だった。


 とは言え、驚いた様子ではなく、いつもの間抜けた表情だった。


「……」

 なので、エリオは、特に何も返答はしなかった。


 ……。


 返答が返ってこなかったので、間抜けな間が空き、シャルスが発する筆記の音がやけに響いた。


「あ、いや、だから、閣下、如何なされましたか?」

 マイルスターは、口をポカンと開けた表情から我に返ったように、再度尋ねた。


 エリオが目を通す前に、マイルスターは報告書に目を通していたから、酷い報告書だという事は分かる。


 あ、まあ、報告書が読みづらいという訳ではない。


 数字が酷いというものだ。


 なので、エリオが何を言っているかは分かっているつもりである。


 ただ、酷いを連発していて、何も言わないのは明らかにエリオらしくなかった。


「酷いものだな……」

 エリオは、再び同じ言葉を繰り返した。


 マイルスターの言葉は聞こえているのは、明らかだった。


 それは、明らかにマイルスターの方を見ようとしないように頑張っている事から分かる。


「ですから、閣下、如何なされましたか?」

 マイルスターは、流石にエリオの参謀らしく、我慢強く同じ質問を繰り返した。


「……」

 エリオは、それにも答えずに、書類をそっと自分より遠い場所に置いた。


(あ、逃げやがった!)

 マイルスターは、直ぐにそう確信した。


 酷い報告に対して、エリオが何も解決策を出さないのは確かに珍しい事だった。


 そして、それに対して、責任を放棄するような事をするのは、まあ、ない訳ではなかった。


 それは、明らかに何も手立てがない時だった。


 対リ・リラの事などは、最たるものだった。


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