その15
「まあ、そうなんだか……」
オーマは、呆れながら苦笑したが、同時に、安心した。
流石、我が娘と言った所だろうか……。
少々、親バカすぎる嫌いがある気がするが……。
苦笑されたサラサの方が、今度はポカーンとする番だった。
「味方にするには、お前の言うとおり、盆暗では確かに困るのだが、切れすぎるのも困るのだよ」
オーマは、分かっていないサラサに凡人の懸念を伝えた。
「まあ、そうなんでしょうが、同盟を組むので、能力があるの方がいいと思いますが……」
サラサは、そうは言っているものの、よく分かっていない様子だった。
この辺の考えは、エリオに似ているのかも知れない。
合理的な考えを突き詰めれば、同じ結論が出ると考えているのだろう。
つまり、バルディオン王国とトット連盟が同盟関係になれば、互いに利があるのは明らかだという考えなのだろう。
遠交近攻の原則からしても同盟関係になるのは利がある。
それに加えて、共通の敵国という点もある。
トット連盟は、大陸に近いワイヴァバリー島を巡って、西大陸の西の端のメジョス王国と対立関係にある。
そして、このメジョス王国は、シーサク王国とスヴィア王国との3国同盟を結んでいた。
敵の敵になるので、お互いのメリットは大きい筈である。
そう、合理的に考えれば、なのだが……。
サラサもエリオもその考え方から大きく外れる事は、ほぼ皆無だった。
ある意味、その辺がこの2人の大きな弱点とも言えた。
なので、オーマは、時よりサラサが心配になる。
とは言え、合理的な考えでない事を説明して、諭すという事は中々難しい。
非合理的な考えとは、説明以前の問題で、いきなり結論が出てきてしまうからだ。
そう、理論も理由もなく、そうなるというものである。
「ただ、老獪な人物というものは、合理的な考えと非合理的な考えを使い分ける。
それに気を付けなくてはならない」
オーマは、自分の意図が上手く伝わるか、ちょっと不安だった。
「うーん……」
サラサは、案の定なのか、首を傾げてしまった。
とは言え、反論はしなかった。
何やら、思考している様子だった。
どうやら、全く通じていないという訳ではなかったので、オーマは安心した。
「成る程、交渉を少しでも有利に進める為に、あらゆる手段を使ってくるという事ですか……」
サラサは、唸るようにそう言った。
サラサなりに、納得したようだった。
オーマは、その様子を見て、少し呆れてしまった。
自分の意図とは大分違うようだが、上手く行き過ぎるぐらいに、正しい結論へと導かれたようだったからだ。
「ま、そう言う事だ」
オーマは、正しい結論が得られた事で、この事はこれ以上触れない事にした。
「畏まりました」
サラサの方は、流石、オーマだと感じで、尊敬の目を向けてきた。
それを見たオーマは、苦笑する他なかった。
上手くコミュニケーションが取れているようで、微妙にずれていた。
だが、話の流れとしては、正しいという何とも奇妙な結果をもたらしたからだ。
「ま、それより、問題なのは、トット連盟までの航路の方だな」
オーマは、話題をもう一つの懸念に振り向けた。
「はい、仰る通りだと思います」
サラサは、今度は、いつも通りの素直な受け答えをした。




