その3
翌日、女王の執務室に、クライセン公爵が参上した。
しかも自ら望んでやってきたのだった。
恐らく、望んでやってきたのは、これが初めてではないかと思われた。
更に、意気揚々としてやってきたのだった。
(リ・リラの予言通り……?)
ラ・ライレは、エリオのそんな姿を見て、軽い目眩を覚えていた。
大体、エリオがここに来る時は、内々に説教される為に、呼ばれるのがほぼ常だと言えた。
つまり、ここにいる時のエリオは、意気揚々としている事なんて、有り得なかった。
だが、今は、違う。
そもそもあのエリオが、意気揚々としている所が、何とも奇妙で、変である。
エリオのそんな様子を見ながら、ラ・ライレは、リ・リラの予言がなくとも、嫌な予感しかしなかっただろう。
それにしても、自分が意気揚々としているのに、エリオはおかしいと思わないのだろうか?
ちょっと酷い言い方だが、これまでのエリオを見てきた人は、誰もがそう感じるだろう。
しかし、睨み合っていても仕方がないので、ラ・ライレはエリオの要件を聞く事とした。
エリオは、これまた意気揚々と話を始めた。
ラ・ライレの隣の席にいるリ・リラが明らかに不機嫌な表情を浮かべているのにもの関わらずにだ。
(この子、大丈夫なのかしら……)
ラ・ライレは、エリオの話の内容より、まず、エリオ自身の心配をした。
エリオの場合、リ・リラが不機嫌だった場合、表情に出さなくとも察する筈である。
それが、察する事が出来ないでいた。
やっぱり、どこかおかしい。
まあ、元々変なヤツなので、変わり者だよねと済ませてはいけない状況だ。
つまり、いつもとは全然違っていて、おかしいという事である。
まあ、そのぉ、なんだ、要するに、簡単に言ってしまえば、それ程調子に乗りすぎていると言う事だ。
「ちょっと、待ちなさい。
エリオ、あなたは自ら赴こうという事なのですか?」
ラ・ライレは色んな思案を巡らしてはいたが、話を聞き流している訳ではなかった。
ちゃんと、重要な所で、質問を入れるのであった。
「えっ……」
とエリオは一旦驚いてから、
「そう申し上げていますが……」
とエリオは不思議そうな表情になった。
エリオにしてみれば、話している通りだという感覚なのだろう。
だが、ラ・ライレによって、正気で言っているのかという感覚だった。
「エリオ、あなた……」
ラ・ライレは、また軽く目眩を覚えて、頭を抱えた。
(長期に王都を離れるという事が、どういう事か、分かっていないのねぇ……)
ラ・ライレは、呆れてものが言えないという状況とはこう言う事だという事を思い知らされていた。
と同時に、横目で、リ・リラを見た。
リ・リラはリ・リラで、黙っていた。
だが、驚いてはいなかった。
更に一層、不機嫌にはなっていたが……。
(リ・リラ、あなた、エリオが何をしようとしているか、感付いていたのね……)
感心する所かも知れないが、ラ・ライレは、リ・リラに対しても呆れていた。
この2人は、相手が何をやろうとしているのかが、分かるようだ。
だから、普通は感心する所ではあるのだが、やはり、根本的な所で今一噛み合っていない。
少なくとも、ラ・ライレにはそう見えていた。
「あの……、陛下?」
エリオは、待っていても次の言葉が出てこないラ・ライレに話し掛けた。
たぶん、いつもの調子だと、もう少し待っていられたのだが、どうも調子に乗りすぎているようだ。
「ふぅ……」
ラ・ライレは大きく溜息をついた。
リ・リラの方は、全く動きがない。
まあ、表面上なのだが……。
エリオは、ラ・ライレの溜息に意外そうな顔をした。
調子に乗りすぎているせいか、自分の意見がすんなりと通ると思っていたのだろう。
完全無欠では無いエリオは、こうしてやらかすのであった。




