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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
23.外患

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その12

「リーランのサキュス強襲が成功した事により、帝国の制海権が近海すら怪しい状況になったのだろう」

 シルフィラン侯の出した結論も、概ねサラサと一致していた。


 勿論、ずうっと黙っているオーマも同じ考えであった。


「『漆黒の闇』はよく言ったものだ」

 シルフィラン侯は、脅威に思っているのか、呆れているのか、分からなかった。


 口調に抑揚もなく、表情も乏しいからだ。


 それにしても、『漆黒の闇』とは本当に言い得て妙である。


 どちらにも取れるので、しっくりとくる二つ名である。


「それはともかく、マグロッド陥落が時間の問題となった以上、いや、既に知らせが遅いだけで、陥落しているやも知れない」

 シルフィラン侯は、恐ろしい事態をいつもの口調で言っていた。


 なので、余計に緊迫感が伝わってきた。


 そして、シルフィラン侯の考え通り、マグロッドはこの時に陥落していた。


「こうなった以上、我が国としても味方を増やす必要がある。

 ここだけの話だが、帝国がこのまま一気に衰退に向かう事も考慮しなくてはならないからな」

 国の中枢部にいる人間なら、考える真っ当な事をシルフィラン侯は述べていた。


 この意見に関しては、サラサを始め、ここにいる者達は全員賛成していた。


「そこで、遠交近攻の原則に基づき、トット連盟に同盟の打診をする事に決定した。

 その任を、貴公が担って貰う」

 シルフィラン侯は、説明を終えた。


(『はい、そうですか』とは、言えない状況なんだけど……)

 説明されたところで、到底サラサは納得できた訳ではなかった。


「無論、我々も脳天気にこの同盟が成立するとは思っていない」

 シルフィラン侯は、サラサの気持ちを察したように、そう言った。


 意外にも、侯は、相手の気持ちを推し量る事が出来るのだった。


 シルフィラン侯は、状況を客観視できる人間である。


 そんな性格だから、この案件がすんなりと行くとは思ってはいなかった。


 寧ろ、困難を極めると思っていた。


 シルフィラン侯の言葉を聞いたサラサは、一種の安堵感を覚えた。


 とは言え、命令を出した側が正しい分析を行ったに過ぎず、当人は何もしない。


 ある意味、正しい分析の上で、このような任務をサラサに課してくる事自体は、悪質なのかも知れない。


 なので、サラサは何とも言えない感じの表情になっていた。


「しかも、現在、トット連盟の盟主を務めるユリア・リオフリンは老獪な人物だと有名である。

 十分に注意する必要がある」

 シルフィラン侯は、説明を終えたはずなのに、次から次へと状況分析を述べていた。


 しかも、悪いものばかりである。


 当然、聞いているサラサはうんざりしてきた。


(そんな難しくて重要な案件をこんな小娘に任せるとは……)

 サラサは、うんざりしながら、皮肉交じりに、そして、自嘲気味にそう思った。


 これは、サラサの気持ちというより、シルフィラン侯の心の内を分析したものだった。


 そして、そう感じると当時に、何故このような任務が自分に回ってきたのかが容易に想像が付いてしまった。


(多分、この役は御父様が引き受けると言った筈……)

 サラサは、そう思いながら、国王に気付かれないように、国王の方を見た。


 まあ、別に気付かれても何て事は無いのだが、取りあえずは宣旨の最中だからだ。


 サラサが、国王を見たのは、オーマが特使の任を引く受ける際に、反対したのが容易に想像できたからだ。


 これは事実であり、この時、国防の問題を挙げて、国王は反対していた。


 それに、シルフィラン侯も同調していた。


 それ以外の人物となると、ほとんどいなくなる。


 侯爵位を持っているものは、例外なく、防衛戦に関わっている。


 なので、6侯は外された。


 となると、次の爵位順である伯爵位を持っている人物になる。


 伯爵位を有しており、対外実績があるサラサが、必然的に第一侯補になる。


 だが、年若いので、より年長の伯爵位を持った人物の方がいい筈である。


 まあ、容姿も関係していたのやも知れない。


 そうなると、国防・外交に明るい人材は6侯の配下以外いない。


 ただ、その配下は、陸軍勢は全員防衛戦に当たらなくてはならない。


 となると、やはり、最初に戻って、サラサ以外適当な人材がいなくなる。


 1周回って、サラサを派遣するの事に決まりそうだった。


 だが、やはり、最後には、その容姿が気になる人物達が少なからずいたのは言うまでもない。


 銀髪に、赤銅色の目、初めて目にする人物が必ずしも好意的に見てくれるとは言い難い容姿だった。


 その容姿で、サラサも幼い時から、王宮では何かと、差別めいた目に遭っていた。


 だが、特使の任命には、特に、国王の推薦があり、サラサに落ち付く事になった。


 まあ、2周目に、見かねた国王が、助け船?泥船?を出した格好になった。


 その辺の経緯は、サラサは与り知らないし、知りたいとも思わなかった。


 結果だけが全てで、知る必要もないと感じてもいた。


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