その10
王都に到着したサラサは、まずは国王への挨拶に向かっていた。
王都までの道中、ラロスゼンロやマグロッドの戦況を聞いてはいたが、特に大きな動きがあるという事は聞かされていなかった。
サラサはバンデリックと共に、控え室で一旦待たされた。
王都に着いた時、いつもならオーマ達の出迎えを受けるのだが、それはなかった。
恐らく6侯会議で忙しいという事なのだろうと解釈した。
(しかし、何で、謁見の間の控え室なのだろう?)
サラサは、ふとそう思った。
国王への挨拶なので、謁見の間を使うのは不思議ではないが、いつもそうとは限らない。
大体は、祝賀や功績があった場合のみに使われる。
今回は功績があったようななかったような状況であるし、況してや、一連の戦いが終わった訳ではない。
まあ、確かに、戦い中に功績の評価をされる事はよくある。
だが、今回は分かりやすい功績はなかった。
となると、それ以外の理由が考えられた。
(マグロッドへの遠征が考えられるけど……)
サラサは、滅茶苦茶嫌な予感した。
そう、今回は、遠征軍司令官としての辞令、つまり、勅命が下る予感がしていた。
ただ、仮にそうだったとしても、腑に落ちなかった。
(でも、それだったら、王都に呼びつけないで、直ぐに遠征艦隊の編成命令が下り、そのまま、遠征へ、という流れが自然だけど……)
サラサは、結論を出したと思ったが、更なる疑問が湧き出てきていた。
なので、容易に結論を出せずにいた。
ただ、碌でもない事で、まあ、これはサラサの主観でそう思っているだけだが、その事で、呼び出されている事は確かだった。
椅子にジッと澄まして座っているサラサだったが、傍らに立っていたバンデリックは、心配であった。
サラサは澄ました表情でいるが、何やら不穏な空気を感じ取っていたバンデリックであった。
穏やかな空気が控えの間に漂ってはいたが、サラサの局所範囲だけは違っているのを敏感に察知していた。
(何か、やらかさなければいいが……)
バンデリックは、いつも通り心配でハラハラしていた。
サラサが何かやらかしたという実績は、公式上ない。
だが、性格をよく知っているバンデリックはいつも心配になるのであった。
しかも、今回は、忙しく結構微妙な状況下で、呼び出されたのだから文句の一つも言いたくなるのは人情というものである。
そんな状況の中、意外に早く謁見の間に通じる扉が開かれた。
「ワタトラ伯サラサ閣下、どうぞお入り下さい」
扉番の衛兵が、ドアノブを片手で掴みながら、頭を下げてそう言った。
サラサは、そう言われると、無言でスッと立ち上がり、謁見の間へと入っていった。
それをバンデリックは、心配そうに見詰めていた。
だが、付いていく事は出来ないので、その場で立っている他なかった。
サラサが、扉を通り抜けると、ゆっくりと扉が閉められた。
それを見たバンデリックは、更に心配度を増しながら、閉じられた扉をジッと見ながら、オロオロと待つ他なかった。




