その8
バルディオン王国、ウサス帝国の現状を長々と書いたが、さて、サラサである。
周りであれやこれややっている最中の太陽暦536年3月である。
サラサも、根拠地であるワタトラであれやこれやと動き回っていた。
岬の最先端で、珍しく途方に暮れていた。
誰もいない所なので、そのような態度が出来た。
ワタトラの防御陣地は、シーサク艦隊との戦闘で壊滅的な被害を出していた。
砲数の数が違いすぎたのがそもそもの原因である。
そんな中、市街地にはほぼ被害がなかったのは幸いだった。
と言うより、圧倒的な不利の状況下で、よく守り切ったと言えた。
無論、その事をサラサは褒め称えたが、さて、これからどうしようという事である。
ここからは、街の様子がよく見える。
(砲台の数が足りなすぎる……)
結局の所、サラサの考えはそこに行き着くのであった。
足りなければ、増やせばいいのだが、そう簡単に行かない現実がある。
砲台の生産には時間が掛かる事である。
まあ、それは仕方がないにしろ、一番の問題が金がない事である。
有り体を言ってしまえば、攻撃前の数を揃えるのは今現在では目処が立っていない。
その方策もなかった。
故に、サラサは途方に暮れていた。
そこに、バンデリックが走り寄ってきた。
「おじょ……」
バンデリックがサラサに声を掛けようとした瞬間、「お」でサラサは反応した。
ギロリと。
バンデリックは、思わず怯んで、全力疾走から急停止した。
「閣下……」
バンデリックは、慌てて言い直した。
この辺の学習能力が高いのか、低いのか分からない感じは相変わらずである。
どうしても、咄嗟の時は出てきてしまうのだろう。
「何?」
サラサは不機嫌そうにバンデリックにそう聞いた。
諸々の事があり、それに、バンデリックの言い間違いが重なったので、かなり不機嫌だった。
「王都からの招請です」
バンデリックは、少し距離を取って用向きを述べた。
無論、距離を取っているのは、必殺のあれを警戒しての事である。
「招請?」
サラサは、バンデリックの言葉を繰り返して、腕組みをした。
この反応からも分かるとおり、不可解に感じていた。
「はい」
バンデリックは、サラサの反応にそう答えるしかなかった。
バンデリックの方も、知らせを聞いて不可解に思っていたからだ。
「その様子だと、用向きは聞いてないみたいね」
サラサは、バンデリックの様子からそう察した。
「仰る通りです」
バンデリックは率直のそう答えた。
「いい話ではないかも知れないわね」
サラサは、まどろっこしい表現を使って、考え込んだ。
「……」
バンデリックは、無言でそれに同調した。
そして、意外に長い間が空いてしまった。
「閣下、急ぎ、向かった方がよろしいのでは?」
バンデリックは、慌ててそう促した。
「ん?そうね」
サラサは、バンデリックに言われて、我に返ったようだった。
そして、考えても仕方がない事なので、ゆっくりと歩き出した。
バンデリックはそれを目で追いながら、自分の横をサラサが通り抜けると、その後を追った。




