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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
23.外患

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その5

「貴公の思惑は承知した。

 で、実際のマグロットの戦況はどうなのだ?」

 大公は、エリオの話をしていても仕方がないので、話題を戻すことにした。


 今の脅威には全く関係ない話になるからだ。


 あ、いや、大公や公爵の行動には大きく影響を及ぼしてはいた。


 だが、それとこれとは全くの別な話ではある。


 うん、だからエリオをディスっている訳ではない。


「数的不利、制海権を握られている割にはうまく戦えていると思いますよ」

 公爵は、率直にそう答えた。


「海軍兵力は、北方艦隊が壊滅した現在、慎重に事に当たらないといけない。

 いつもなら、ルディラン艦隊が劣勢分を補ってくれるのだが、今回ばかりは、それも無理だろう」

 大公は、海軍のフォローをまず行った。


「中央艦隊を動員というのは、やはりダメなのですか?」

 マイラック公は、一応要請してみた。


「北方艦隊を再編成するのには時間が掛かる。

 その為、いざという時の為に、帝都に艦隊を置いておく必要がある」

 大公は、マイラック公の要請ににべもないと言った感じで答えた。


 一瞬で、要請を却下されたマイラック公は予想通りのこととは言え、苦笑いをした。


「陸軍の方は、いつも参戦しているミュラドラだけではなく、周辺都市ベレシズ、エメン、シマラア、アハムラーラからの援軍を入れている。

 更に、バルディオン王国からも援軍が駆け付けている。

 これらにより、マグロッドの西方鎮守軍はそれだけ増員されていると言える。

 だが、劣勢である。

 敵も、増援を送ってきているからだ」

 大公は、いつも通り事実を淡々と述べていた。


「はははっ……」

 現場で戦っているマイラック公は、言われなくても分かっているので、力なく苦笑いする他なかった。


 まあ、現場に出ている以上、肌で感じているので、その切迫感は大公以上のものであろう。


 でないと、只の間抜けである。


「加えて、更なる敵の増援の兆候が見られる」

 大公は、まだ事実を淡々と並べていた。


 これにより、マイラック公は大公が何をしようとしているか、察しが付いてしまった。


 と言うより、ここまで出向いてきた事で、既に察していた。


 でも、まあ、生粋の軍人であるマイラック公は、それに簡単に従う訳には行かなかった。


「王国からの増援要請と、更に周辺都市から兵を集める事は出来るのではないでしょうか?」

 マイラック公は、大公に再び要請した。


 公爵も無能ではない。


 色々な要請は既に出しているが、ノーという返事しか返ってこなかった。


 今は、ダメ元で最高責任者に直談判しているという所だった。


「王国の方は、現在、湖畔都市ラロスゼンロが侵攻を受けている。

 その為、こちらに援軍を回す余裕はないだろう。

 現在派遣している援軍も引き上げたいのが本音だろう」

 大公の回答は、率直だった。


 事実だけを突き付けるものであり、状況を理解している事が窺えた。


 だが、それ故に、発言が重すぎる傾向がある。


 なので、マイラック公は黙って聞いている他なかった。


「現在、援軍を出している5都市の更なる周辺から援軍を掻き集めるのは、確かに出来よう。

 だが、時間も掛かるだろうし、寄せ集めでしかない軍隊である」

 大公は、更に絶望的な見解を示した。


 ただ、この見解を示している間、大公は何か違っていた。


 海軍の艦隊はきちんとした艦隊編成を取らないと、運用できないので、命令系統はしっかりしていた。


 だが、陸軍に関しては、常備軍というものが、あまり多くはなかった。


 西方の備えの西方鎮守軍、北方の備えとしての北方守備隊、帝都防御の近衛軍のみであり、国力に対して明らかに貧弱であった。


 全体の兵力自体は、大陸一の規模を誇るが、統一的な軍ではなかった。


 事が起きる度に、諸侯に要請して徴用する寄せ集めの軍になっていた。


 その為、兵力に比して、軍事力が弱い印象が拭えない。


 それにしては、善戦している。


 これは、マイラック公の指揮能力の高さを示すものである。


 だが、いつまでも個人に頼っているのは良くないと大公は考えていた。


 そして、大公はこの弱点を克服するために、尽力はしていた。


 だが、長い帝国の歴史で曲がりなりにも築かれた制度である。


 辣腕家の大公を以てしてでも、改革は難航していた。


 まあ、どの時代のどの国でもそうなのだが、改革というものは本当に大変である。


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