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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
15.新東方貿易ルート構築

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その2

「リ・リラ、どうかしましたか?」

 ラ・ライレは自分の執務室で孫に声を掛けた。


 ラ・ライレとリ・リラは、御前会議後、女王の執務室で書類を片付けていた。


 リ・リラは、成人前からラ・ライレと共に仕事をしていた。


 なので、この光景は見慣れた風景となっていた。


 とは言え、御前会議が無事に終わったにしては、リ・リラの機嫌は明らかに悪かった。


 澄ました感じで、書類の処理に集中していた。


 だが、何かを振り払うかのように、無理矢理集中していたといった方がいいだろう。


「いえ、大丈夫です、陛下」

 リ・リラは、心の中を見透かされたという自覚があったが、敢えてそう答えた。


(また、あの子が気に障ったのかしらねぇ……)

 ラ・ライレはやれやれ感満載で、エリオの顔を思い浮かべていた。


 元来、人当たりが良いリ・リラが途端に不機嫌になる原因は、その一点だった。


 とは言え、今回の会議は、最初から最後まで、エリオは上手くやっていた。


 御前会議に出席し始めて、初めての事だろう。


 用意した報告書も完璧、態度も不貞腐れているとは程遠い、公爵らしい態度だった。


(あの子は、上手くやっても、こうやって、突かれるのかしらねぇ……)

 ラ・ライレはそう思うと、エリオが些か不憫に思えた。


 そして、リ・リラが何に苛ついているのかが、ラ・ライレ自身、よく分からなかった。


 なので、雰囲気が悪いまま、仕事を進めるのも何だしという感じで、聞いてみる事にした。


「エリオが、また、気に障る事をしたのですか?」

 ラ・ライレは意外に直球勝負だった。


 まあ、こんな調子の孫にオブラートに包むような聞き方をしても、確かに、仕方がないだろう。


 リ・リラはリ・リラで、「エリオ」というフレーズで、ピタッと動きが止まった。


 何やら、その言葉は禁句のような感じだった。


 そして、

「……」

と無言だった。


 その無言の態度が示す事は、エリオにとっていい事ではない事は確かだった。


 ラ・ライレは更にやれやれ感を増した。


(さて、どうしたものかしら……)

 ラ・ライレは、何とか聞き出そうと思案し始めた。


「あいつ、調子に乗りすぎです」

 リ・リラは、動きが止まったまま、ボソリと低い声で、いきなり理由を述べた。


「えっ!?」

 ラ・ライレの方は、どうやって聞き出そうかと思案を巡らせようとしていた所、いきなり、リ・リラが話したので、絶句してしまった。


 まあ、言われた事が予想外で、固まってしまったといった方がいいだろう。


「……」

 リ・リラはリ・リラで、ラ・ライレの返事待ちだったので、黙って、ピクリとも動かなかった。


 先程、ボソリと言ったのも、こうして動かないのも、なるべく冷静さを保とうとしている結果だった。


「……」

 ラ・ライレはラ・ライレで、完全に思考が停止してしまい、言葉が出てこなかった。


 当然、リ・リラが何を言っているのか、分からなかった。


 思わぬ沈黙時間にリ・リラの方が焦れた。


「ですから、あいつ、調子乗りすぎです」

 リ・リラは再び同じ言葉を繰り返した。


 その姿は、何とか冷静さを保とうと、本当に必死になっていた。


 ある意味、その姿は可愛らしいものなのだが、エリオに対してあまりにも過剰に反応しすぎなような気がする。


 でも、そこは年の功だろうか?


 ラ・ライレは何とか状況を把握しようと、或いは、落ち着けようと動き出した。


「どういう事でしょうか?リ・リラ。

 今回、エリオ関係の案件は、全て上手く言ったと思いますが……」

 ラ・ライレはまずは確認から入った。


「お言葉ですが、陛下。

 全ては上手く行っていません」

 リ・リラは抑揚のない口調で、きっぱりと言い切った。


「上手く行っていないとはどういう事でしょうか?」

 ラ・ライレは、最初から認識がずれていた事に気が付いた。


 そして、リ・リラの様子から、只ならぬ雰囲気を感じて、思わず緊張した。


「講和会議は平行線に終わったではありませんか!」

 リ・リラは再び抑揚のない口調でそう言った。


 何とか、感情を抑えているのは明白だった。


「ああ、確かにその通りですね……」

 緊張してしまったラ・ライレは、リ・リラの言葉を聞いて安心した。


 確かにその通りなのだが、交渉前から決裂を見越していたので、そんなに咎める事ではなかった。


 でも、まあ、国のトップとしては、確かにその辺の区別は厳密にすべきだと、反省はした。


 と同時に、ラ・ライレは何てこのない事だという認識を持ってしまった。


「それに……」

 リ・リラの方は、まだ続きがあるような言い方だった。


 思わぬ展開に、ラ・ライレは女王らしからぬ反応をしてしまった。


 驚きの表情を隠せないまま、孫を見詰める他なかった。


「あいつは、今回の事で、調子に乗りすぎました。

 絶対に何かやらかします」

 リ・リラは、今まで抑制した分を吐き出すかのように、強い口調で断言した。


 それはまるで、じゃなく、完全に予言だった。


 そして、それを全く否定できないラ・ライレがそこにいた。


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