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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
23.外患

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その4

 太陽暦536年3月になってしまった。


 時は過ぎるものなので、月日を重ねるのは自然の法則である。


 だが、フレックスシス大公は正にそのように感じていた。


 前線に赴こうとしたのはいいが、結局、赴くには意外と時間が掛かった。


 フレックスシス大公は大いに苛ついた。


 だが、無表情に、事を進めていた。


 表情に乏しい人間は意外に多いらしく、しかも、各国のトップクラスに1人以上はいるようだ。


(とは言え、ようやく、これで情報が揃ったと言えるな……)

 大公は、そう思いながら天幕である人物を待っていた。


「殿下、遅くなりました」

 入り口の布を手で避けながら大柄の男が入ってきた。


 鎧を着けていたので、戦場に出ていたのだろう。


 その男と共に、部下らしき男達も続いて入ってきた。


「マイラック公、忙しいところ、済まないな」

 大公は、一応労いらしき言葉を掛けてはいたが、その感情は微塵もないことは明らかだった。


「はははっ……」

 マイラック公は、豪快に笑いながら大公の前で立ち止まった。


 2人は従兄弟同士らしく、互いの性格をよく知っていた。


 因みに、マイラック公は軍の総司令官である。


 そして、今回の軍事作戦の総指揮を執っている。


「総司令官が自ら戦場に立たなくてはならないのは、戦況が厳しい故か、それとも、貴公の趣味の問題か?」

 豪快に笑っているマイラック公に対して、気にもしていないような感じで、大公は質問した。


「そう、嫌みを仰いますな」

 マイラック公は、笑顔のままそう言うと、大公の前の椅子に腰掛けた。


 そして、

「その両方である事は、殿下にもお分かりでしょう」

とマイラック公は続けた。


「戦況報告は受けていた。

 だが、実際の所が分からないので、ここに来た」

 大公は、淡々と自分がなぜここにいるのかを述べた。


 傍から見ていると、2人の話は全く噛み合っていないように感じられた。


「そのようですね。

 諸侯や部下達が大分困っていたでしょうに」

 マイラック公は、少し揶揄うように言った。


 大公はそれに対して、一瞬だが、目がつり上がった。


 この世で、大公の表情を変えることが出来るのは、2人。


 その内の1人が、マイラック公だった。


「成る程、報告以上に戦況は悪化しているという事だな」

 大公は、ここには実務としてきているので、マイラック公の軽口は聞き流した。


 まあ、元々身にならない会話は嫌いではあった。


「うーん、殿下がどうお感じになっているか、存知あげませんが、一進一退と言った所ですよ」

 マイラック公は、現場指揮官としての意見を忌憚なく話した。


 別に、自分の手柄を大きく見せようとかいう見栄みたいものはなかった。


 現場指揮官としての戦場で感じる風をそのまま話していた。


 まあ、尤も、総司令官が現場指揮官となってしまっているのはかなりいただけない。


 とは言え、これには理由があった。


 だが、大公は、それに関しては、かなり気にしているようだ。


「公爵、貴公が戦場に出ているだけで、戦況は悪化していると見るべきなのだが」

 大公は、お茶を濁すような真似をせずに、ズバッと言った。


 性格的な側面からもあったが、それ以上に余裕がなかった。


「殿下、お分かりでしょ?

 私が戦場に立つ理由と、殿下が戦場近くまで出張ってきた理由は同じだという事を」

 公爵は、不敵な笑みを浮かべてそう言った。


 流石に、総指揮官だけあり、大公の迫力にも動じなかった。


 それどころか、切り返して見せた。


「!!!」

 当の大公は、その切り返しに、絶句していた。


「そうです、サキュスの失態を繰り返さないように、我々は今ここにいます。

 あの『漆黒の闇』のような芸当をまたされたら堪りませんからね」

 公爵は、鋭い眼光を大公に向けながらそう言った。


 サキュス攻防戦は、誰もが思い付く作戦である。


 だが、実際やれるとなると、ほぼ不可能なのである。


 兵站の準備、そして、大艦隊の運用。


 今までは、それをやれる人物がいるとは思えなかったのだった。


「ふぅ……」

 大公は、珍しく溜息をついた。


 自分が、かなり追い詰められていた事を認識すると共に、同じ思いをしている人物に会って、ホッとした面もあったからだ。


「対峙した事はないですが、『漆黒の闇』は、その二つ名に相応しいですね。

 本当に、闇深い」

 公爵は、恐ろしさと共に呆れた気持ちを持っていた。


 バルディオンやウサスでは、恐怖の対象としての闇である。


 しかし、蛇足ながら、リーランでは、その2つ名は、そんなにカッコいいイメージではないことを付け加えておく。


 この話の流れには全く関係ないのだが……。


 それと、エリオに格好いいイメージが付いてしまうのを筆者が妨害している訳でもない事をここに明記しておく。


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