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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
23.外患

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その3

 太陽暦536年2月、バルディオン王国で6侯会議が行われている同じ頃、ウサス帝国でも軍議が行われていた。


 普通は、現地で戦っている軍司令部に任せる。


 だが、戦いが始まってから4ヶ月、戦闘は一向に終わりを見せず、戦況も一向に好転せずと言った所だった。


 その為、フレックスシス大公が自ら視察に出る事になった。


 これは、皇帝に命令された訳ではなく、自発的に動いたものだった。


 そして、異例すぎる事であり、初めての事である。


 大公は、後方拠点で、南方艦隊の拠点でもあるアマールに到着すると、そこから最前線のマグロッドに入ろうとした。


 だが、最前線の視察は、諸侯から止められた。


 自分達の面子が立たないという理由はあったものの、それ以前に、帝国の要である大公にもしもの事があったら、帝国自体が瓦解しかねないからだ。


 とは言え、大公が出向いてきた事で、諸侯の面子が多少なりとも傷付けられたのは言うまでもなかった。


 だが、それ以上に、名実のうち、実のみを優先する大公がわざわざ出張ってきた事に対する諸侯の緊張感は半端なかった。


「それらの報告は王都でも聞いている」

 大公は、諸侯からの報告をその一言で終わらせてしまった。


 当然、場の空気は一気に凍り付いた。


 ……。


 大公は、問い掛けたつもりだが、場が凍り付いただけで、発言する者がいなかった。


 大公は、発言が不適切だったと思いながら苦笑いした。


 それが、一層の恐怖を生んだのは、大公には分からなかった。


「現状、4ヶ月も戦闘が続いている。

 戦況をきちんと把握しておきたい」

 大公は、呆れたようにそう言った。


 勿論、呆れたのは自分に対してであった。


 何せ、4ヶ月もの間、膠着状態を放置している事になるからだ。


 だが、諸侯にはそう映らなかったのは、言うまでもなかった。


 ……。


 先程で、場が完全に凍り付いたのが、まだ凍る部分があったのかという感じに、静まり返っていた。


 大公は、諸侯の面々を見渡した。


 普段接している面々ではないことを再認識した。


 総指揮を執っているマイラック公爵と艦隊司令のケイベル侯爵は前線に出ていた。


(まともに話が出来る人間がいないか……)

 大公は、無表情のままそう思った。


 ただ、大公の雰囲気はこの場にいる人間には伝わっているようだった。


(不利な戦況を隠している訳ではなさそうだが……)

 大公が、何か考える度に、周りがビックと反応していた。


(恐らく、全体の戦況を把握している者がここにはいないのだろう)

 大公は、そう結論付けた。


 そして、そう結論付けると、立ち上がった。


「!!!」

 言葉にならない言葉が、諸侯達の間から湧き上がった。


「ここに居ても、意味がない。

 やはり、前線に赴く事にする」

 大公は、そう言い残すと、歩き出していた。


 諸侯達は、それを呆然と見送ることしか出来なかった。


 大公の行動は、帝国の現在の姿を正に凝縮している場面とも言えた。


 大公が有能すぎるのか、権威がありすぎるのか、使える諸侯が少ないのか……。


 色々な問題を抱えているのだろう。


 まあ、これは何処の国でもある事ではある。


 大公自身は、それをどれだけ気にしているのだろうか?


 前線に出てきているくらいだから、気にはしているのだろう。


 そして、その大公は、現在の状況を帝国の存亡の危機と感じているのだった。


(サキュスでは、大失態を犯した。

 マグロットでは、その轍を踏む訳には行かない!)


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