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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
23.外患

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その2

「リーラン、シーサクの海軍の方は本当に警戒しなくていいのでしょうか?」

 ピラコラン侯は、気を取り直してから再び質問した。


 こうも簡単に回答されると、そんな気分になるのだった。


「それに関しては、私より、ルディラン侯に説明していただいた方が良かろう」

 シルフィラン侯は、オーマに回答を振った。


 と同時に、この場にいる人間達の視線が、一斉にシルフィラン侯からオーマに移った。


 オーマはいきなり話題を振られたので、やれやれ感で溜息をつきたかった。


 が、当然、雰囲気的にはそれを出来なかったので、吐きたい溜息を飲み込んだ。


「艦隊運用の専門家の意見としては、交戦後の再出撃は極めて困難です。

 特に、メンテナンスが厄介で、それを怠ると、戦場に出ても戦力としては機能しないでしょう」

 オーマは、この場に合わせるように、淡々と説明した。


 この説明に、ピラコラン侯とフサントラン侯は頷きながら聞いていた。


 とは言え、完全に不安が払拭された訳ではないようだった。


「となると、再出撃を行った第2艦隊は、極めて異例と言う事になるな……」

 フサントラン侯は、感心したように、そう呟いた。


 不安以上に、サラサのやった事の凄さを感じたのだろう。


「そうですね。

 戦の天才と言われるクライセン公との交戦後の再出撃ですから、よくやったと思っています」

 オーマは、誇らし気にそう言った。


 サラサを褒められたと思って、気を良くしたのだろう。


「その天才が問題かと思われます」

 気を良くしたオーマの気分を打ち壊すような発言を、ピラコラン侯がした。


 とは言え、意図的にした訳ではなく、やはり、不安要素を放っておけなかったのだろう。


「リーラン王国の軍事は、今やその天才であるクライセン公が全て掌握しました。

 あの『漆黒の闇』が、その才能を遺憾なく発揮できるようになった事は、由々しき事態かと思われます」

 ピラコラン侯は、続けてそう言った。


 この発言は、この場にいる誰もが共通した認識だった。


 とは言え、「漆黒の闇」が定着しつつある。


 確かに、エリオの才覚は、色々と「闇」の中にある。


 それはともかくとして、その不安要素を緩和する対案をシルフィラン侯は口にしなかった。


 沈黙したと言う事は、説明をオーマに任せたと言う事なのだろう。


「確かにその通りかと思われます」

 オーマは出しゃばりかも知れないと思いながらも、まずは、静かにそう同意した。


 それにより、場の空気は一気に動揺した。


「とは言え、今回はそれが幸いすると思われます」

 オーマは、動揺した空気を抑えるかのように、再び静かにそう言った。


 そして、動揺が収まるのを待った。


「クライセン公は、戦術的には思わぬ行動に出る場合が多々ありますが、戦略的には極めてオーソドックスな手法を用います。

 若いながら、戦の本質を肌で知っていのでしょうね。

 その彼が、今回だけ、その手法を変えるとは思えません。

 そして、全権を握った以上、他の部隊の暴発という点も心配しなくてもよろしいでしょう」

 オーマは、そう説明を行った。


 オーマの説明を聞いて、場の空気は平穏に急速に戻っていった。


 だが、それでもまだ納得という訳ではないようだった。


「しかし、今回はサキュス急襲という行動を行った。

 しかも、サキュスを占領するという意思はないようにも感じられた。

 これは、戦略的にはおかしな事と思えますが……」

 ピラコラン侯は、納得できない部分を口にした。


「サキュスの占領を行わなかったのは、一時的に占領は成功しても、長期的には維持できないと考えたからでしょう。

 それに、急襲したのは、攻撃される前に先制攻撃を行ったに過ぎません」

 オーマは、ピラコラン侯にそう説明した。


「つまり、こちらから手を出さない限り、今回は攻撃してこないという事か……」

 ピラコラン侯は、考え込むようにそう言った。


「仰る通りだと思います」

 オーマは、ピラコラン侯の認識を後押しした。


 それにより、場の空気は一気に平穏化した。


「とは言え、それでは我々は大した事がないと侮られている気分にもなりますな」

 ピラコラン侯は、苦笑いしながらそう言った。


「……」

 オーマは、ピラコラン侯同様に、苦笑いを浮かべた。


 とは言え、それは合わせたに過ぎなかった。


 本心から、ピラコラン侯の言った言葉に同意していたからだ。


「まあ、何にせよ、今回はそれを幸いと思う事にしよう」

 シルフィラン侯は、2人のやり取りを纏めるかのように、ゆっくりとそう言った。


 場の空気が凍りそうだった。


 シルフィラン侯の言葉ではなく、エリオの潜在的な脅威によってだ。


「そして、今は、最優先の懸念事項の排除を行う事に注力しよう」

 シルフィラン侯は、初めて決意を示した。


 それに対して、この場にいた誰もが頷いた。


「閣下、マグロッドの方は如何なさりますか?」

 フサントラン侯は、別の質問をしてきた。


 これにより、もう一つの懸念事項が浮かび上がるような感じだった。


「マグロッド戦線に関しては、我が国が主導できる立場にはない。

 戦いは非常に厳しい状況だが、我が国からこれ以上援軍を出す事はない。

 第3軍を撤退させる事はあってもだ」

 シルフィラン侯は、今まで以上に冷徹な口調でそう言い切った。


 マグロッドは、帝国領なのでバルディオン王国がやれる事はほとんどない。


 しかも、既に援軍を送っているので、同盟国の義務は果たしていた。


「了解しました。

 然らば、自分の任務に専念します」

 フサントラン侯は、そう言うと、立ち上がって、敬礼した。


 それに習いピラコラン侯も立ち上がって、敬礼した。


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