その1
23.外患
内憂がない訳ではないが、現在進行形で、外憂が進行中のバルディオン王国だった。
太陽暦536年2月、リーラン王国で戴冠式が行われていた頃、バルディオン王国では6侯会議が頻繁に行われていた。
だが、6人全員で会議を行っている訳ではなかった。
その理由は、現在の外憂進行中によるものであった。
湖畔都市ラロスゼンロを、スヴィア王国・シーサク王国の連合軍が攻撃中であった。
これに対応する為に、第2軍管区のエルドラン侯が出陣中である。
また、帝国の都市マグロッドでは、スヴィア王国の猛攻が続行していた。
その為、援軍として第3軍管区のサリドラン侯が出陣中である。
なので、2人は欠席している。
会議の冒頭、ラロスゼンロとマグロッドの戦況が説明された。
それと共に、出陣中の2侯爵からの報告も付け加えられていた。
いずれも前と変わらないと言った感じだった。
……。
報告の後、しばらく沈黙が続いてしまった。
パッとしない報告のせいでもあるが、真っ先に口を開く2侯爵がいなかったせいの方が大きいかも知れない。
残った4人はいずれも必要ない事は口にしない面がある。
とは言え、このまま座している訳には行かないだろう。
「両都市が攻撃を受けてから4ヶ月目である。
そろそろ打開せねばなるまい」
議長役であるシルフィラン侯がそう口を開いた。
沈黙に見かねたと言うより、議長としての責務を果たしただけだろう。
「我が軍の兵力を動員するという事でしょうか?」
ピラコラン侯が、シルフィラン侯の発言に敏感に反応した。
現在、ピラコラン侯率いる第4軍の兵力の半分が、第2軍と第3軍の後詰めとして、動いていた。
「いや、第4軍だけではなく、第5軍もラロスゼンロ戦線に投入し、一気に打開を図る」
シルフィラン侯は、冷徹そのものの表情、つまり、能面のような表情でそう言った。
「……」
「……」
いきなりの発言に、ピラコラン侯だけではなく、フサントラン侯も言葉が出てこないようだった。
(成る程……)
そんな中、オーマだけはすぐに納得したような感じになっていた。
ラロスゼンロは現在膠着状態にあった。
押され気味の膠着状態であるが、都市城壁に第2軍は押し込まれていた。
3倍の敵を相手にしているので、致し方ないと言った所だった。
「嫌なら、どちらかの軍と我が第1軍が代わってもいいと考えている」
反応がなかったので、シルフィラン侯は畳み掛けるようにそう発言した。
静かだが、独特な威圧感がある。
「シルフィラン侯、そう言う事ではありません。
もう少し説明を願えませんか?」
ピラコラン侯は、びっくりしたようなやれやれと言った感じで説明を求めた。
フサントラン侯は、何も言わなかったが、同意らしい。
そんな中、オーマは冷静に事の成り行きを見守る事にした。
「第4軍はスヴィアへ、第5軍はシーサクへそれぞれ攻め込み、敵の兵站を遮断して貰う。
その後、第2軍が動員できる全兵力で一気に敵を押し返す。
その際、第4軍と第5軍は側面から援護して貰う」
シルフィラン侯は、地図を指し示しながら淡々と説明を行った。
つまり、大規模な包囲戦である。
説明が終わった後、この場にいた者達から特に感心めいたものはなかった。
この場にいるのは誰もが軍事の専門家である。
冷静に考えれば、すぐに予想が付くものだったからだ。
それより、他に欲する説明があった。
「第2軍は全兵力といったが、第4軍も第5軍も同じく動員できる全兵力を投入という事ですか?」
フサントラン侯は、そう質問した。
普段はあまり喋らないが、今回は、自分の防衛拠点を留守にすることになるので、聞かざるを得なかったのだろう。
「左様。
第1軍、第2軍、第4軍、第5軍は、防衛担当の都市に最小限の兵のみを残す。
第2軍、第4軍、第5軍は既に説明したとおりだが、第1軍は、王都付近に主力を集中させて待機。
各軍が留守で問題が起きた場合の即応体制を取る」
シルフィラン侯は、質問に淡々と答えた。
答えを聞いたこの場にいた大半が、予想通りといった感じだった。
諦めとは違うが、何か、やるせないと言うか、変な雰囲気になっていた。
「守備兵がかなり少なくなりますが、大丈夫でしょうか?」
変な空気の中、フサントラン侯の方も、淡々と質問を重ねたといった感じだった。
2人の言葉のやり取り自体は、かなりまともである。
だが、互いの態度、と言うより、醸し出す雰囲気がこの場には馴染んでなかった。
客観視しすぎていて、事実のみを淡々と言い合っている。
話は早く進むのだが、果たしてそれでいいのだろうかという気にさえなってくる。
「国境を接している国は5カ国。
帝国は同盟国、連合は友好国で、その方面からの侵略は考えなくていいだろう。
交戦中の2カ国は、スヴィアとシーサク。
スヴィアは既に、2箇所で戦っているので、余力はあるやも知れないが、新たな戦場を作り出すことはしないだろう。
シーサクは、新たな戦場を作り出すやも知れないが、その場合は第5軍が対応することになる。
シーサクの海軍の方は、既にルディラン艦隊と交戦し、撃退している。
リーランの方も、交戦済みで、撤退している。
以上の点から、兵力を大幅にシフトしても問題がないだろう」
シルフィラン侯は、長い説明を淡々とゆっくりとした。
しかし、不思議と長いとは感じられなかった。
膨大の情報量を思った以上に手短に話したという事なのだろう。
……。
ただ、完璧な回答により、沈黙が流れてしまった。




