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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
22.戴冠式

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その15

 戴冠式が終わった後の話。


 戴冠祝賀の宴が行われていた。


 リ・リラは、教会から派遣された神官にまずは労いの言葉を掛けていた。


 彼女は、神官であると同時に、枢密院の顧問官でもあった。


 戴冠式に派遣されてくる神官は、国王なら男性、女王なら女性と決まっていた。


 そして、顧問官の中で、一番上位の者が派遣されてくる。


 リ・リラは、神官と一通り言葉を交わすと、礼を述べて、それを終えた。


 そして、その後は、飲み会……という手筈という訳ではなかった。


 まずは、重大な人事を発表する事になった。


「ラ・ミミ王女を王嗣として迎える」

 リ・リラは集まった貴族の前でそう宣言した。


 既に、内示を行った後ではあったが、これで名実ともにラ・ミミは王嗣となった。


 つまり、現時点では、リ・リラの後継者はラ・ミミとなる。


 年齢的には、娘と母親の差があり、逆転現象とも言えるが、王位の継承順位は、はっきりさせておく必要がある。


 何があるか分からないからだ。


 と同時に、これにより、王位継承権の順位が変わる事になる。


 ラ・ミミの息子であるミモクラ候クルスが、第2位となり、ヘーネス公ヤルスが第3位となる。


 エリオは、まあ一応第4位になる。


 王嗣となったラ・ミミは、一歩前に出た。


「陛下、戴冠の義、無事にお済ませになり何よりです」

 ラ・ミミは、跪いて、リ・リラに最初に挨拶した。


「ありがとう」

 リ・リラは、そう返答した。


 ラ・ミミは、返答を受け取ると、いったん立ち上がり、一礼した。


 そして、リ・リラの右斜め前に一段低い位置にある椅子へと腰掛けた。


 これを機に、エリオを先頭に、諸侯の挨拶が延々とと続いていった。


 それが終わり、ようやく飲み会となった。


 宴は新たな門出に相応しく、盛大な盛り上がりを見せていた。


 リ・リラは、諸侯からの挨拶を一通り終えてから、様々な者達と歓談を間断なく繰り返していた。


 傍らにいるエリオは、何となく疎外感を感じ、いや、いつもの事なので、何となくそこにいるだけだった。


 こういう場は、エリオはあまり得意ではないのは言うまでもないだろう。


 こういう場を嫌っているという訳ではないが、ぼけらっとしている場面が多い。


 リ・リラが関係しているなら、まあ、何事もないように振る舞えると言った所か……。


 そんな中、リ・リラを取り囲む集団が、同世代のうら若き令嬢達に変わっていた。


 彼女達は、戴冠式こそ出られなかったが、こういった機会は社交場としても利用されるために、出席が許されていた。


 令嬢達は、爵位を持った家柄の所属ではある。


 とは言え、うら若き乙女達が集うと、場が華やかになるだけではなく、騒がしくもなる。


 エリオは、益々一歩、いや、大分離れた感じになっていた。


 エリオは、女性が苦手という訳ではなかったし、話も問題なく出来た。


 あ、いや、問題なくとはかなり違うのかも知れない。


 本人は問題なく話しているつもりだが、会話が盛り上がらない、続かないと言った具合である。


 それを問題と思っていないところが、救いようがない。


 本来なら、それを見ているリ・リラが何か、アドバイスなりしてもいいのだが、まあ、そこはそこ。


 する訳がないのである。


 と言うより、今の状態の維持を望んでいた。


 令嬢達の方も、それを察してか、それ以上は深入りを避けていた。


(相変わらず、賑やかだな……)

 エリオは、感心した訳ではなく、迷惑そうに感じた訳でもなかった。


 ただ、そう思っただけだった。


 そんな中、リ・リラが急にひな壇に立った。


(えっ!?)

 エリオは、驚きと共に嫌な予感がしたが、声を押し殺した。


「さて、ここで重大発表を致します」

 リ・リラは、きっぱりとそう言った。


「皆様、お静まり下さい」

「皆様、ご注目!」

「女王陛下のお言葉です!」

 令嬢達が次々と、声を上げた。


 彼女達の声は、女性特有の高くよく通る声だった。


 すると、さっきまで騒がしかった雰囲気が一転し、場が静まり返った。


 そして、皆の視線が、立ち上がったリ・リラに向けられた。


「では、この場で報告させて頂きます。

 わたくし、リ・リラとクライセン公エリオは、この度、婚約する事になりました」

 リ・リラは、恥ずかし気だが、誇らしくそう報告した。


「!!!」

 エリオは、それを聞いて呆然としていた。


 会場は一層静まり返った。


 状況がよく飲み込めていないのは明らかだった。


 おおおっ!!


 大分間が明いてから、驚きの声が上がった。


 そして、そこかしこから拍手が鳴り、それを合図のように、割れんばかりの拍手に変わった。


 ドン、ドン!


 エリオの背中を、ロジオール公、クルスが叩いた。


 痛いなぁという表情でエリオが振り返ると、飛びっきりの笑顔の2人がいた。


 そして、リ・リラの真横に、エリオは2人に押し出された。


 並んだ2人は、諸侯から次々とお祝いの言葉を受け取った。


「ありがとう、ありがとう」

 リ・リラは、戴冠したとき以上の笑顔でそれに答えていた。


 その満面の笑みは、幸せそのものだった。


 その隣にいるエリオも、同じに……、ではなく、目をパチクリさせていた。


(あのぉ、陛下、そう言えば、プロポーズの返事をまだ受け取っていないのですが……)


 エリオが当惑していた理由はそこにあった。


 やはり、何とも残念な2人であった。


 そして、ラブコメは続くのであった。


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