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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
22.戴冠式

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113/173

その13

 太陽暦536年2月。


 リ・リラの戴冠式の日。


 教会からは法王の代理人が派遣され、儀式が執り行われた。


 立太子の礼には、極限までの厳かさがあったが、こちらは少々趣が違った。


 荘厳さという意味では、同じくあるのだが、違う種類のものを比べても仕方がない。


 立太子の礼は、教会内、しかも、スワン教の本拠地で行われているために、宗教色が前面に出ていた。


 だが、こちらは王宮の間。


 限られた人間しか入る事が許されないとは言え、どこかオープンな雰囲気があった。


 一種のお祭りである。


 とは言え、熱狂さはあるが、厳かさは全く失われていない。


 そんな雰囲気の中、リ・リラはリーメイと共に自室で出番(?)を待っていた。


(しかし、最近のリ・リラ様は機嫌がすこぶるいい……)

 リーメイは、リ・リラを見て呆れながらそう思った。


 自分の仕えている主に向かって、しかも、新女王に向かって、誠に不敬かも知れない。


 とは言え、リーメイならば、許されるだろう。


 一介の侍女とは言え、その影響力は計り知れない。


「ふん、ふんふん……」

 リ・リラは、珍しく鼻歌交じりに、鏡で自分の姿をチェックしていた。


 いや、そう見えているだけで、特に、自分を見ている訳ではなかった。


 ただ、浮かれているだけだった。


 こんなに無防備に浮かれているリ・リラは、近年にはなかった。


(浮かれていると言うより、勝ち誇っていると言った方が、適切ね)

 リーメイは、リ・リラの心の奥底を見抜くようであった。


 その理由は、推して知るべしと言うか、まあ、明らかすぎるだろう。


 とは言え、その勝ち誇っている態度は、益々女王然としていた。


 あ、まあ、前々から女王然としていたが……。


 そして、今日は、戴冠式。


 これで、完璧(?)に、そして、名実ともに女王となるのである。


「失礼致します、陛下。

 クライセン公爵閣下がお見えになりました」

 部屋の外にいる扉番の親衛隊から声が掛けられた。


「ふふふっ……」

 リ・リラは、思わず笑みではなく、笑いが込み上げてきた。


「リ・リラ様、顔、顔!!」

 リーメイは、そんなリ・リラの態度を注意せざるを得なかった。


 優越的地位を完全に握った相手の登場とは言え、それはないだろう。


(どうして、こう、残念な思考になってしまうのか……)

 リーメイは、頭を抱えたくなる心情にあった。


 しかし、そこは侍女である。


 何事もなかったように、澄ました顔をしていた。


 こういった光景からは、リ・リラの残念すぎる点のみがあぶり出されていた。


 それは、ともかく、注意されたリ・リラは、鏡で自分の表情を確認して、慌てて元に戻した。


 そして、妙な間があったが、リ・リラはしゃんとして、リーメイに頷いて見せた。


 リーメイは、合図を受けると、扉に近付いた。


 扉に近付くと、再びリ・リラの方を見た。


 何だか心配になったからだった。


 リ・リラは、案の定、表情が崩れかけていた。


 だが、リーメイに見られると、再びしゃんとなった。


(やれやれ……)

 リーメイは呆れていたが、超一流の侍女らしく、表情には出さなかった。


 そして、ゆっくりと扉を開けた。


 扉の前にはエリオが立っていた。


「どうぞ、お入り下さい」

 リーメイは、恭しく一礼した。


 エリオは、それを受けると、部屋の中へと進み出した。


(何か、妙な……、変な雰囲気だな……)

 エリオは、そう思いながら扉を越えた。


 鈍すぎるエリオにも分かるくらいに、妙な空気になっていた。


 それ程、リ・リラは平常心を保てなかったのだろう。


 とは言え、エリオは何だか突っ込んではいけない気にもなっていた。


 それは、数々の戦場を駆け抜けてきた独特な嗅覚からだった。


 と言いたい所だが、まあ、誰にでも分かる事だった。


「陛下、戴冠式の準備が整いました。

 お出ましを」

 エリオは、違和感を持ちながら、そいて、平静を保ちながら、恭しくそう言って、一礼した。


 こう言った事には、形式が必要である。


 そして、この形式がある事が、今は有り難く感じていた。


 普段はそれを面倒臭がっている癖に、いい気なものだ。


「分かりました。

 では、参りましょう」

 リ・リラも、エリオが違和感を感じている事を敏感に察知していた。


 だが、エリオの方も努めて平静にと言うか、事務的に事を進めようとしていたので、それに乗っかる事した。


 斯くして、エリオはリ・リラをエスコートしながら、戴冠式式場へと向かったのであった。


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