その12
(見落とし?)
リ・リラは、リ・リラで頭の中で今回の事を初めから回想していた。
帝国の北方艦隊が攻めてくる準備を察知したところからだった。
敵の機先を制すると共に、主導権を握り続けるエリオ。
まるで反乱を予期していたかのように、留守部隊への指示と、素早い戻り。
そう考えると、リ・リラは何が何だか分からなくなってきた。
「あー、もういいわ」
リ・リラは、頭の中がパンクした。
「い?」
エリオは、身構えた。
流石、稀代の策略家だった。
「こんな事を言い合っていても無駄ね」
とリ・リラは頭を切り替えるように、そう言うと、
「とんでもない事が起きてしまったけど、今は何とか持ち堪えて、いい方向に向かっている。
そうでしょ?」
とエリオに笑顔で同意を求めてきた。
「!!!」
エリオは、その笑顔に一瞬怯んだ。
こう言う時のリ・リラは要警戒である。
(あれ?)
エリオは、ふと冷静に考えてみた。
言っている事は、正論である。
なのに、同調圧力を感じてしまっていた。
「仰る通りです」
エリオは、絞り出すような感じでそう言った。
「???」
リ・リラは、エリオの思わぬ反応に違和感を感じた。
2人の会話は割とスムーズに進む。
掛け合い漫才ではない。
ただ、ある条件が満たされた場合は、途端にそうではなくなる。
リ・リラは、勿論、その条件に気が付いていない。
なので、エリオがワンテンポ遅れて返事したのに対して、違和感を感じたのだった。
……。
一瞬だが、沈黙が訪れた。
「お話しがお済みでしたら、ここら辺でご休憩なされては」
存在を完全に消していたリーメイが、急に口を開いた。
と同時に、この部屋にいる誰よりも存在感が大きくなった。
なので、エリオもリ・リラもその言葉を聞かないといけない雰囲気になった。
シャルスはいないが、流石に4人組のボスである。
「そうね、これで何とか、無事に戴冠式を迎えられそうだし、休憩としますか」
リ・リラは、伸びをしながらそう言うと、リラックスした表情になった。
戴冠式という言葉が漸く出てきたが、今やっている事は戴冠式を行う上での下準備とも言えた。
リーメイの方は、リ・リラから休憩の言葉を聞くと、一礼して、お茶の準備に取り掛かった。
空気が和んでいこうとしている中、エリオは深刻そうな、いや、切羽詰まった表情になっていた。
「え……」
リ・リラは不穏な空気を感じて、エリオに声を掛けようとした。
「あのぉ、陛下!」
エリオは、切羽詰まった表情から勢い余った表情、いや、声でそう口走っていた。
「!!!」
リ・リラは、見た事のないエリオの表情を見て、絶句していた。
と同時に、身構えた。
「あ、いや、リ・リラ……」
エリオは、リ・リラから視線を外しながら言い直した。
「???」
リ・リラは、戸惑いの表情を浮かべた。
2人の様子を背中越しに、お茶の準備をしながらリーメイが注視していた。
和やかになる筈の空気が、一気に不穏な空気に変わってしまった。
「そのぉ、リ・リラ、俺と結婚してほしいんだ……」
エリオは、今度はリ・リラの目を見て、そう言った。
「……」
リ・リラは、何を言われたのか、分からないと言った感じでポカーンとしていた。
リーメイは、お茶を準備する手が止まり、ワナワナと震えていた。
震えてしまって、準備が出来ないと言った方がいいだろう。
何でだろう?
エリオの方は、ロジオール公のアドバイスに従って、自ら申し出を行っただけだった。
だが、まあ、推して知るべしと言った感じか?
この後、一生以上の弱みとなるのであった。
まあ、書くだけ野暮だが、そんなムードも何もないやり方をされてもなあ……。
ダメでしょう……。




