その11
「以上です、陛下」
エリオは、リ・リラの自室で根回しの結果を話し終えた。
エリオは、立ったまま報告をし、リ・リラは椅子に腰掛けながら聞いていた。
「根回し、ご苦労様」
リ・リラは、エリオの労を労った。
「ありがとうございます」
エリオは、リ・リラの労いに素直にそう答えた。
とは言え、ちょっと上目遣いで様子を伺っているようだ。
「とは言え、御前会議の件はわたくしの言ったとおりになったでしょ?」
リ・リラは、エリオの警戒通りに、少々勝ち誇った表情になっていた。
「はぁ……」
エリオは、何とも言えない感じの表情になっていた。
実際、どう反応していいのか分からなかったからだ。
それは特に、それに関して感想があるわけではなかったからだ。
「エリオは、人の悪意にちょっと鈍感すぎるのよ」
リ・リラは、苦笑していた。
ある意味、いい性格なのだが、国政に関わる人物としては、良い性格ではない。
「ロジオール公にもそう指摘されましたが、今回のメンバーで特に悪意を持つ人物がいるとは思えないのですが……」
エリオは、何となくといった感じで、反論してみた。
特に、確固とした考えがある訳ではなかった。
この辺が、エリオの欠陥なのだろう。
「対象は今のメンバーだけではないでしょ。
今後に関わることなのだから、そういう要素はできるだけ排除すべきでは?」
リ・リラは、呆れていた。
敵認定後の行動は素早いが、潜在的に敵になり得る相手に対しては、無防備すぎるからだ。
(エリオは、商売をやりたいみたいだけど、絶対に騙されて破産するわね)
リ・リラは、呆れながら暗澹たる気持ちになると共に、少しおかしくなった。
「うん……、成る程……」
エリオは、ワンテンポ遅れて、考え込むような納得したような感じになっていた。
(やれやれ、どうして、これが反乱を鎮圧する事が出来たのかしら??)
リ・リラは、?顔でエリオをジッと観察していた。
「人格はともかく、結局、人を増やすと、機密が漏れるリスクが高くなるでしょう」
リ・リラはダメを押すかのように、そう言った。
「ロジオール公にもそう指摘されましたね」
エリオは、気まずいといった表情をした。
その表情を見て、リ・リラは頭を抱えた。
頭では分かっているようだが、明らかに行動が伴っていなかった。
と同時に、この事に関しては、もう話しても無駄だと思った。
結果が伴っているので、良しとするべきだろう。
「ところで、反乱の方はもう完全に鎮圧できたの?」
リ・リラは、話題を変える事にした。
「ラ・ラミ様のお陰で、ほぼ制圧が完了しました」
エリオはそう答えた。
(人の功績を高く評価する姿勢は良しとするけど……)
リ・リラは、感心はしていなかった。
反乱軍の大なり小なりの拠点に対して、砲撃、水攻め、火攻めなどあらゆる策を使うだけではなく、どこをどう攻めれば、いいかを事細かく指示を出していた。
その様子を傍らで見ていたので、その異常さはリ・リラが身に染みて分かった。
正直、エリオの事は良く分かっているつもりだったが、戦となると、その才幹は底が知れなかった。
以前、フリオが本気の殺し合いになると、エリオに勝てる人間はいないと言っていた事が現実になっていたのだった。
「それにしても、今回の事で、わたくしの至らなさを思い知らされたわね」
リ・リラは、溜息交じりにそう言った。
自分に対しての悩みなのだが、最早何に悩んでいるのかも見失いそうになっていた。
エリオは問題解決に長けているのだが、どうも、それ以上にスッキリしない事態を引き起こしているようだ。
「今回の事は、私の見落としが原因ですよ」
エリオは、きっぱりとリ・リラの言葉を否定していた。
とは言え、バツが悪そうな表情をしていた。
実際、今回の事を自省すると、頭の中がクラクラしていた。
あまりにも、とんでもない思い違いをしていたからだ。
(そう考えると、人の悪意というか、根本的な考えに対して、至らない点が多すぎるかも……)
エリオは、そう思わざるを得なかった。
とは言え、分かっているが、これは改善される見込みのない残念な点だった。




