その10
でも、まあ、被害妄想はともかくとして、話は進めなくてはいけない。
と言うか、よくもまあ、ここまで関係のない話をしてきたなとエリオは感じていた。
だが、まあ、エリオだからこんな事を感じるだけであり、いずれも必要なコミュニケーションだろう。
「事前にお知らせしたとおり、御前会議の参加資格をまずは緩めたいと考えています。
今のままですと、参加人数が少なくなります。
格式は必要ですが、それによって人数が少なくなってしまうのはちょっと考えものだと思います」
エリオは、2人にそう相談事を持ちかけた。
エリオの事前通知した案は、御前会議の参加資格を伯爵位以上から役職に就いているもしくは代理の者とするのもであった。
ロジオール家はともかくとして、クライセン家とヘーネス家は、跡継ぎは未定であり、副に就く人物が代理となる。
そして、その代理の人物は子爵以下の人物になるのは確実だった。
「私の方は、問題ないと思っている」
ロジオール公は、すぐにそう返してきた。
エリオは、ちょっと拍子抜けする思いであった。
こうなる予想はしてはいたが、ロジオール家にとっては、勢力拡大という意味では受け入れがたい案でもあった。
なので、拒絶するもしくは、何かしらの交換条件のようなものを付けてきてもおかしくはなかったからだ。
こうなると、些かでも構えていたエリオは、自分が馬鹿馬鹿しくなっていた。
「私の方も、問題ありません」
ヤルスの方は、少し遠慮勝ちでそう答えた。
まだ、3公の中に、入っていけていないと言った感じだった。
「さて、次の議題ですが、御前会議の参加人数を増やす件ですが……」
とエリオがそう口を開いたが、
「ああ、それはどうかなと思う」
とロジオール公が珍しく話の腰を完全に折ってきた。
余程の懸念があるのだろう。
事前に配られた案としては、3省3庁の大臣と長官を加えると言うものだった。
現在の所、リ・リラとラ・ミミの王族2人。
3公とその副職に当たる3人の6人。
それに6人を加えたらどうかという案だった。
「……」
エリオは、すぐに反論せずにロジオール公の方を見て、その後の言葉を促した。
「御前会議の内容は、内政の方が寧ろ多い。
そういった点から、貴公の提案も分かる。
だが、国防に関わる事案に関しては、文官から意見を聞くのはよくない」
ロジオール公は、エリオに促されるまでもないと言った感じで意見を言った。
「……」
エリオは、具体的に反論されたのでちょっとびっくりしていた。
ロジオール公は、エリオのその表情を見て、こちらも意外そうな表情になった。
「また、事後報告という事なら問題はないが、事前となると、機密の漏洩リスクも高くなる」
ロジオール公は、エリオの表情を見ながら続けたので、自分が何か間違ったことを言っているのではないかと言う感じになっていた。
無論、言っていることは間違いはなかった。
寧ろ、エリオの方が間違っているというか、おかしかった。
エリオ自身の人格というか、性格が問題なのかもしれない。
どうも人の悪意に対して、鈍感というか、何か違う感じである。
実際、自分に悪意を向け続けたホルディム伯でさえ、使い続けた人物である。
その辺の感覚がおかしい事は確かである。
「それでしたら、内政に関して3大臣と3長官を参加させることにして、それ以外のことに関しては、これまで通りにしたら如何ですか?」
ヤルスは、2人の微妙な雰囲気を察して、堪らず助け船を出す格好になった。
本来なら、あまり発言はしたくはなかった。
これまでの経緯で、遠慮するべきだと思ったからだ。
だが、ここは黙っている方が、不味いと思った。
「うん、それでしたら問題はないですね」
エリオは、即座にそう答えた。
エリオにしてみれば、その案ならロジオール公が受け入れやすいと思ったからだ。
だが、実際にはその考えはおかしなものである。
「私の方も、それで問題がないが……」
ロジオール公は、ちょっと煮え切れない感じになってしまった。
何だか自分が我を通してしまったから、妥協案が出てきたような雰囲気になっていたからだ。
無論、それはロジオール公の勘違いではなかった。
エリオの感覚がおかしいのである。
とは言え、エリオには深慮遠謀的な何かがあるのだろうという事で、ロジオール公は、敢えて何も付け加えなかった。
まあ、過大評価しすぎたという事です。
「それならば、内政に関しては拡大御前会議として、王族、3公とその副職の者、そして、3大臣と3長官で行うこととし、それ以外の事柄に関しては、御前会議として、王族、3公とその副職の者で執り行うという事になりますね」
ヤルスは、議長みたいにその場をまとめた。
実際、御前会議ではヘーネス公が議長を務めるので、本来の形になったと言う事だろう。
「承知しました」
「承知」
エリオとロジオール公は、ヤルスのまとめに対してそう答えた。
「では……」
ヤルスは、そう言って残りの議題へと移っていった。
初めから、ヤルスが議長役を務めれば、もうちょっとスムーズに進んだのだろう。
後は、リ・リラから示された各家、個人に対しての賞罰に関してのことや、今後の事が率直に話し合われて、会議は終了となった。
エリオは資料をまとめると、立ち上がった。
「そうそう、クライセン公」
ロジオール公は、不意にエリオに声を掛けてきた。
ロジオール公もちょうど立ち上がったところだった。
「何でしょうか?」
エリオは、やや不気味に思いながらそう聞いた。
何だか、妙な笑顔だったからだ。
「申し込みは、公からしないと、一生の弱みになるぞ」
ロジオール公は、そう言うと、笑いながらエリオの肩をバシバシ叩いた。
「???」
エリオは、突然の出来事に唖然としていた。
「これ以上、陛下の尻に敷かれたくないのなら、頑張ることだ」
ロジオール公は、そう言い残して、部屋を後にした。
その様子を見ていたヤルスは、気まずそうに目を逸らした。
エリオは、何だか追い込まれたような気分になっていた。




