その1
時間は再び巻き戻る。
時系列的に描写できないとは、執筆能力に疑いが生じる事態である。
まあ、それはそれとして、その事は丁寧に棚に上げておきたい。
太陽暦534年9月、ウサス帝国との講和会議後の御前会議から話が始まる。
この御前会議では、様々ある議題の中、やはり、最も注目されたのは講和会議の内容であったのは言うまでもなかった。
講和会議の内容自体は、既に報告書として、各所に配られていた。
と同時に、エリオ艦隊が帰還中に遭遇したルドリフ艦隊との出来事も報告書として、各所に配られていた。
(それにしても、報告書って、こんなに簡単に作成できるものだったのか?)
エリオは、報告書を作り終わった後、唖然としていた。
そう、今までのは何だったのか?と言う気分だった。
エリオは、元々面倒くさがりだが、事務処理能力は高い方だ。
そして、事務処理に長けた人材はクライセン一族にも多くいる。
それらの人材を使えば、あっという間に処理されていく。
リーラン王国は立憲君主制な為、書類の処理は結構重要な仕事になる。
とは言え、国民議会はない。
それはまた置いておく事としよう。
クライセン一族の事務に長けた者達に加えて、今回はヤルスという事務処理に関してはプロ中のプロがいた。
したがって、今まで以上に万事上手く行く事は、端っから分かっていた事だった。
だが、頭で分かっている事と実際にそうなるとではやはり何と言うか、そう、感動が違うのであった。
(とは言え、今回は、横やりが全く入らなかったのが大きいな……)
エリオは、しみじみと噛みしめるように思った。
まあ、横やりというのは、ホルディム伯の妨害や難癖である。
何度も言うようだが、やはり、スワン島沖海戦がターニングポイントとなっていた。
お飾りに過ぎなかったエリオが、権限を取り戻す事により、自分の命令がきちんと通るようになった。
それにより、第2次スワン島沖海戦となる所を、エリオの事前準備により、それを防いで見せた。
この事は、エリオの足下を更に強固にした。
そして、当然、それは報告書作成だけに留まらなかった。
(今回の御前会議は楽勝だったな……)
エリオは、会議室を後にしながらそう思っていた。
自分が報告した事に関しては、全く異議が出なかった。
まあ、それは事前に予想されていた事なので、大した驚きはなかった。
ただ、それだけではなく、今回の一連の出来事に対して、女王直々からお褒めの言葉を頂いた。
滅多に褒められる事にないエリオは、ちょっと舞い上がってしまった。
(俺って、凄いんじゃねぇ?)
元々、自己評価が低いエリオは、ちょっとでも自己肯定すると、調子に乗ってしまうのかも知れない。
多分、人生で一番調子に乗ってしまった時期になるだろう。
その調子づいたエリオは、その勢いのまま、兼ねてから計画していた事案を実行に移す事を決意したのであった。
だが、エリオは気が付いていなかった。
権限が戻った事で、書類作成も爆発的に増えている事を……。
とは言え、この事は、本編とはあまり関係ない事であると思いたい……。




