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クライセン艦隊とルディラン艦隊 第2巻  作者: 妄子《もうす》
22.戴冠式

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その9

 しかし、触れない訳にはいかないだろう。


 だが、今でなくてもいいのでは?という思いはあった。


 つまり、ロジオール公と自分との認識のギャップが著しい事を、エリオは感じていた。


 とは言え、ロジオール公の方は、それに全く気付いていないようだった。


(まあ、いずれは検討しなくてはならない事か……)

 エリオは、ロジオール公の熱視線に対して、仕方がなく決意した。


「率直に申し上げますと、大惨敗といった感じですね」

 エリオは、溜息交じりだが、きっぱりと言い切った。


 それに対して、ロジオール公は、唖然と言うか、思いがけないというか、複雑そうな表情を浮かべた。


「貴公、ちょっと待ってくれ。

 サキュス沖で、ハイゼル艦隊を撃滅し、その工廠を破壊。

 十分に戦果を上げていると思うのだが……」

 ロジオール公は、話しながら驚愕の表情へと変わっていった。


「何を仰ってるのですか?

 そんな戦果なんて、現状を見れば、無いのと同じですよ。

 いや、遠征に掛かった費用を考えれば、大きなマイナスです」

 エリオは、やれやれ顔でそう言った。


 口には出さないが、北方艦隊は残存しているし、工廠も与えた被害はたかが知れているとエリオは思っていた。


 つまり、当初の目標とは比べるまでのない戦果だという事である。


 まあ、これは、サラサ艦隊に邪魔され、更に反乱が起こったせいである。


「貴公……」

 ロジオール公にして見れば、近年希に見る戦果をマイナスと言われて納得が行かないようで、尚も口を開こうとした。


「隙を突かれて、反乱が起き、国内は動揺しています。

 こんな中、外征しても国を傾けるだけですよ。

 そう思いませんか、ヘーネス公」

 エリオは、些か面倒になってきたので、黙っているヤルスに話を振った。


 エリオは戦略目標について論じており、ロジオール公は戦術の戦果を論じているので、噛み合う訳がなかった。


 これはどう見るかで、結果が変わってくる物であり、どちらが正しいかという物でもなかった。


「私もクライセン公の意見と同じくします」

 ヤルスは、話を振られたので、仕方なくと言うか、素直に現状認識を話した。


「……」

 ロジオール公は、その言葉を聞いて、貴公もかという表情で、絶句した。


 エリオはエリオで、澄ました表情で、そのまま話を続けるように促していた。


 逆の事を言われたら、そのままそうですねで、次の話に進めばいいと思っていた。


 真剣に議論をしようとしている人間からして見れば、お気楽すぎた。


 つまり、エリオにとってはもう過去の事であり、今話すべきは次の課題であった。


「まずは国内の動揺をなくす事です。

 関係ない者には、これまで通りを約束し、反乱に加担した者に対しては、反抗しなければ、これ以上の罰はないと言う事を知らしめるべきでしょう」

 ヤルスは、端的に国内優先を主張した。


 ヤルスの言葉は、反乱の首謀者とその周辺者の粛正が終わった事を示唆していた。


 それを聞いて、ロジオール公は、頭を掻いた。


「やれやれ、若い貴公達に猪突猛進を咎められるとは……。

 やはり、私は引退した方が……」

 ロジオール公は、やれやれ顔でそう言い掛けたが、ふと、クルスの顔が思い浮かんだ。


「いやいや、我が倅だと、私以上か……」

 ロジオール公は、百面相のように表情が変わった。


 エリオとヤルスは苦笑いする他なかった。


「クライセン公、戦場では倅が迷惑を掛けたと思うが……」

 ロジオール公は、そう言って、思い出したように詫びを入れようとしていた。


「ああ、いや。

 そんな事はありませんよ。

 クルス殿には助けられましたよ」

 エリオは面倒な事になる前に、先制した。


「まあ、ブレーキ役が効いたと言う事だな」

 ロジオール公は、独り言のように呟いた。


 エリオは、それに関して、何も言えなかった。


 ただ、撤退の手際を確認したときの事を思い出していた。


「とは言え、今回の戦いはあれにとっては、良い勉強になっただろう。

 あやつもそう言っていたしな」

 ロジオール公は、更に独り言のように呟いた。


「……」

 エリオは、口を挟んでいいか迷っていた。


「クライセン公、改めてお礼を申し上げる。

 今回の事、倅が大変お世話になった」

 ロジオール公は、そう言うと深々とエリオに頭を下げた。


「いやいや、止めてくださいよ。

 お互い様ですから……」

 エリオは、会談が良からぬ方向に進んでいるのを感じていた。


(これでは、話が進まない……)

 合理性の塊のエリオにとっては、歓迎できない展開だった。


 助けを求めるように、ヤルスを見たが、当然の如く、今はまだ役に立ちそうになかった。


 意見は言うようにはなったが、議事進行はまだ遠慮しているようだった。


 なので、エリオは、強引でも話を進める事を決意した。


「まずはロジオール公、頭を上げてください。

 この会議は、過去の事を話すのではなく、今後の事を話し合う場です。

 過ぎた事はこれくらいにしておきましょう」

 エリオがそう言うと、場の空気が一変した。


(やれやれ、本来なら、こんな事をしたくはないのだが……)

 エリオは、損な役回りが回ってきたという自覚が湧いてきていた。


 考えてみれば、いつも損な役回りのような気がしてきた。


 しかし、まあ、半分当たっているが、半分は只の被害者意識だろう。


 あ、いや、三分の一……、四分の一?、五……?


 あんまし当たっていないかも知れないので、取りあえず置いておこう。


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