その8
「とは言え、反乱は収まったと言えるが、帝国がまた何か仕掛けてくる気配はないのか?」
ロジオール公は、真面目な表情に戻ってそう聞いてきた。
今回の反乱の首謀者ホルディム家の後ろには、帝国のフレックシス大公がいた事は、供述で明らかになっていた。
「何とも言えませんね」
エリオは、率直のそう答えた。
これは情報がないので、判断しかねると言った所だ。
とは言え、エリオの考えでは、今回の件もそれほど大公が深く関わっているとは思っていなかった。
供述調書を多角的に検討しても、単なる口約束にしかすぎないと思えたからだ。
大公にしてみれば、大した手間を掛けずに、こちらを弱体化させる事が出来ればいいだけだった。
なので、援助らしい援助もなかったし、成功する必要さえもないと思っていたのだろう。
今回は才能以上の野心を持った無謀者が、煽てられて図に乗ってしまった結果だと言える。
とは言え、完全に隙を突かれた事は確かだった。
エリオの合理性からすると、こんな事を起こしても意味が無いので想定外だったのは確かだった。
ある意味、エリオの欠点をさらけ出したとも言える。
なので、今回の反乱の件は、意外とエリオには堪えていた。
何よりも、リ・リラを危険に晒した事は慚愧に堪えませんと言った感じだった。
とは言え、これはエリオのせいばかりではない。
ラ・ライレは賢王として名を轟かせていた。
だが、賢王とて、いくら善政を敷いたとしても、不満分子が全く出て来ない訳ではない。
今回は、その総括をエリオがさせられたと言っていいだろう。
「まあ、そうだな。
しかし、マグロッドでは苦戦しているようだが?」
ロジオール公は、現状を把握する為に更に質問を続けた。
いきなり話が話が飛んだが、当人同士では、現状把握という事で繋がっている。
それはそれとして、現在、ウサス帝国とスヴィア王国では、例年通り(?)の戦いが行われていた。
例年は互角レベルの戦いなのだが、今年は海軍兵力で劣る帝国が押され気味だという方向が入っていた。
それに加えて、バルディオン王国のラロスゼンロでも戦闘が行われている。
王国の国力では、陸軍の方も帝国に回せる程の戦力はない。
「マグロッドが陥落する可能性はあると思います」
エリオは、再び率直にそう答えた。
「そうなると、勢力図が大きく変わる可能性があるな……」
ロジオール公は、エリオの意見を聞いて、腕組みをして深刻そうな表情になった。
「そうなんでしょうが、スヴィア王国がどこまでやるかですよね」
エリオは、斜め上を言っているような感じだ。
まあ、いつもの事だ。
「ん?」
ロジオール公は、生粋の軍人らしく、怪訝そうな表情になった。
まあ、それはそうだろう。
陥落させる為に戦っているのに、どこまでやるかと言われると、「なんだ、それ」となるだろう。
「いくら有利とは言え、都市を一つ落とすのですから、それなりの犠牲が出るでしょう。
犠牲が出ない作戦があるのならいいでしょうが、ないのなら、その犠牲をどこまで許容するかに掛かっていると思われます」
エリオは、怪訝そうな表情をしているロジオール公にそう説明した。
戦果より損害を気にするエリオらしい意見である。
「確かに、多大な犠牲を払って、陥落させても維持できなくては意味がない」
ロジオール公は、納得したようだ。
「とは言え、スヴィア王国の方もあらゆる可能性を模索するでしょうから、戦いはいつより長引くかも知れませんね」
エリオは、いつもの表情、どちらかと言うと間抜け顔でそう言った。
ここは、普通どや顔すべき所だ。
「となると、我が国にもチャンスが巡ってくると言う事か……」
ロジオール公は、ニヤリとしていた。
「いっ!?」
エリオは、嫌な予感を覚えた。
「帝国が南方に兵力を集中している所を北方から攻めたらどうなる?」
ロジオール公は、興味深そうに聞いてきた。
「いやいや、勘弁してくださいよ。
この状況で、そんな事は出来ませんよ」
エリオはやれやれ感満載でそう言った。
「そうか?
バルディオン王国もスヴィア王国とシーサク王国とやり合っているようだし、この状況を作り出した張本人が今一度出向いてもいいのでは?」
ロジオール公は、簡単には引き下がらないと言った感じだった。
(どこまで、本気なのか……)
エリオは、そんな公の姿を見て、呆れていた。
「この状況を好きで作り出した訳ではありませんよ。
周りが、勝手に利用しただけです。
我々には関係ない話ですよ」
エリオは、にべもないと言った感じで言った。
「とは言え、チャンスではないのか?」
やはり、ロジオール公は、引き下がらないと言った感じだった。
「前回のサキュス遠征も、遠征前に申し上げたとおり、博打でした。
その博打を再びやる事はありますまい」
エリオは、うんざりしたようにそう言った。
「貴公としては、前回の博打はどういう評価になっているのだ?」
ロジオール公は、何かに食い付いてきたような表情になっていた。
「……」
エリオは絶句していた。
エリオは、正直この話題には触れたくはなかったからだ。




